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経費精算

経費精算規程の作り方:ひな形と判定できる条文の書き方

執筆: 4649編集部

経費精算規程を作っても差し戻しが減らない会社には、共通点があります。項目が足りないのではなく、条文が「判定できない形」で書かれていることです。「社会通念上妥当な範囲とする」「必要に応じて領収書を添付する」——こう書かれた条文は、チェックする側が毎回考えることになり、人によって結論が変わります。

規程の目的は、申請を減らすことでも禁止事項を並べることでもありません。同じ申請には誰が見ても同じ結論が出る状態を作ることです。この記事では、そのまま使える全10条のひな形と、税務が決めている3本の線、そして曖昧な条文を判定可能に書き換える型をまとめます。

先に決めるのは4つだけ:誰が・いつまでに・何を添えて・誰が承認するか

条文を書き始める前に、この4点を決めてください。規程の残りは、この4点の例外規定にすぎません。

誰がは申請者の範囲です。正社員だけでなく、契約社員・パート・役員・内定者の扱いまで決めます。役員の交際費や、入社前の内定者に払う交通費は、後から「規程に書いていない」と気づく典型です。

いつまでには締切。ここを月末締めにするか、支払日から逆算した日付にするかで、月次決算の着地が変わります。経費精算の締切が月初5営業日だと、その分だけ月次の確定が後ろに倒れます。月次を早めたい会社は、まず経費精算の締切を前に動かすのが効きます(月次決算を早期化する方法)。

何を添えては証憑。領収書か、レシートでもよいか、宛名は会社名が必要か、電子データで受け取った領収書をどう保存するか。ここは電子帳簿保存法が絡むので後述します。

誰が承認するかは承認ルート。金額帯ごとに承認者を変えるなら、その境目の金額も決めます。承認者が不在のときの代理承認を書き忘れると、長期休暇のたびに運用が止まります。

税務が決めている線は3本ある

上限金額の多くは自社の裁量です。ただし、自社で自由に決められない線が3本あります。この3本を規程に落とし込んでいない規程は、作った後で経理が個別に判断し直すことになります。

通勤手当:電車・バス通勤は月15万円まで

電車やバスだけで通勤する人の通勤手当は、最も経済的かつ合理的な経路による金額のうち、1か月15万円までが所得税の非課税です。これを超える部分は給与として課税されます(No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当)。規程には「通勤手当は最も経済的かつ合理的な経路により算定し、1か月15万円を限度とする」と書くか、上限を超える支給を認めるなら「超過部分は給与として課税する」と明記します。

マイカーや自転車で通勤する人は距離区分で限度額が決まります(No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当)。ここは令和8年度税制改正で動いたところで、片道65km以上の区分の限度額が引き上げられ、一定の要件を満たす駐車場等の料金を負担している人については、距離区分の限度額に月5,000円を上限として駐車場料金相当額を加算できるようになりました。適用は令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当からです(通勤手当の非課税限度額の改正について)。距離区分の金額を規程の別表に転記している会社は、改正のたびに別表がずれます。金額を転記せず「所得税法上の非課税限度額による」と書いて別表を国税庁の区分に委ねる書き方にしておくと、改正での書き換えが不要になります。

交際費と会議費:1人当たり1万円が分岐点

得意先との飲食費は、参加者1人当たりの金額が1万円以下であれば交際費等から除くことができます(社内飲食費を除く)。この基準は令和6年4月1日以後に支出する飲食費に適用され、改正前は5,000円でした(No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算)。

実務で効くのは金額そのものより保存要件のほうです。この取り扱いを使うには、飲食等の年月日、参加した得意先等の氏名や名称と関係、参加人数、金額と飲食店の名称・所在地などを記載した書類の保存が必要になります。つまり、申請フォームに「参加者」と「人数」の入力欄がなければ、1人当たりの金額を計算することも、要件を満たす書類を残すこともできません。規程に金額基準を書くだけでは足りず、申請フォームの項目とセットで設計する必要があるのはこのためです。

社内だけの飲食は、1人当たり1万円以下でもこの取り扱いの対象外です。ここで間違えやすいのは、対象外になった社内飲食費が自動的に福利厚生費になるわけではない点です。社内の者だけで飲食した費用は原則として交際費等に当たり、福利厚生費として処理できるのは、創立記念日や新社屋の落成式などに際して従業員等におおむね一律に社内で供与される通常の飲食に要する費用や、専ら従業員の慰安のために行われる運動会・演芸会・旅行などに通常要する費用に限られます(No.5261 交際費等と福利厚生費との区分)。部署単位の懇親会や一部の役職者だけの会食は、この例外に当たりません。

一方、会議に関連して茶菓・弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用は、1人当たり1万円の基準とは別に、もともと交際費等から除かれます(No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算)。会議費として処理するなら、会議の実体(日時・参加者・議題)が記録として残っていることが前提です。金額が小さいからという理由で会議費に寄せると、税務調査で交際費等に振り替えられます。

規程には「接待飲食費の申請には、参加者の氏名・所属および人数を記載する」と書いてください。そのうえで、得意先等との会食・社内の懇親会・会議に伴う飲食の3つは申請区分を分け、科目の判定を経理側でできるようにします。科目をどう割り当てるかの考え方は消耗品費と雑費の違いで整理した判定表の作り方が流用できます。

出張旅費・日当:「通常必要と認められる範囲」

出張の日当は、その旅行に通常必要であると認められる部分であれば、消費税の仕入税額控除において、インボイスの保存がなくても一定事項を記載した帳簿の保存だけで控除が認められます(出張旅費等特例。出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件、No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い)。3万円未満の公共交通機関による運送も、帳簿のみの保存で控除が認められます(消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A)。

この2つの特例は、帳簿に通常の記載事項に加えて特例の適用対象である旨の記載を求めます。規程側では「出張旅費等特例の対象となる申請は、帳簿に出張旅費等特例に該当する旨を記載する」まで書いておくと、経理が申請区分から帳簿の記載を機械的に決められます。日当の金額に法令上の上限はありませんが、役職ごとの支給額を別表で定め、全社に同じ基準を適用してください。個別の支給額が通常必要と認められる範囲かどうかは顧問税理士にご確認ください。

領収書の保存方法も条文に書く

電子帳簿保存法の対応は、規程に書かれないまま現場の運用だけで回っていることが多い部分です。メールやWebサイトからダウンロードした領収書は電子取引に該当し、データのまま保存する必要があります(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】)。紙で受け取った領収書をスマートフォンで撮影して保存する場合はスキャナ保存の要件に従います(電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】)。

規程には、受け取った形式ごとに保存方法を書き分けます。「PDFやスクリーンショットで受領した領収書は、印刷せずデータのまま経費精算システムに添付する」「紙で受領した領収書は撮影して添付し、原本は経理部に提出する」。原本を捨ててよいかどうかは要件の充足状況で変わるため、規程で断定せず「原本の取り扱いは経理部の指示による」としておくのが安全です。

全10条のひな形

ここから先はコピーして使える骨格です。自社の実態に合わせて金額と部署名を入れ替えてください。

第1条(目的) この規程は、当社の業務遂行に必要な経費の立替、申請、承認および精算に関する事項を定める。

第2条(適用範囲) この規程は、当社の役員および全従業員(契約社員、パートタイム従業員を含む)に適用する。内定者その他会社が個別に認めた者に対しては、本規程を準用する。この場合の申請および承認の方法は、経理部が別に定める。

第3条(経費の定義) 経費とは、業務遂行のために必要かつ合理的な支出であって、会社が負担するものをいう。業務との関連が説明できない支出は経費として認めない。

第4条(申請期限) 経費の申請は、支出した日の属する月の翌月◯営業日までに行う。当該期限を超えた申請は、理由書を添付のうえ所属長の承認を得る。前事業年度に属する経費の申請は受け付けない。

第5条(証憑) 申請には領収書またはこれに準ずる書類を添付する。領収書の宛名は当社名義とする。電子的に受領した領収書はデータのまま添付し、紙で受領したものは撮影のうえ添付する。原本の取り扱いは経理部の指示による。

第6条(承認) 経費の申請は所属長が承認する。1件◯円を超える申請は、所属長の承認に加え経理部長の承認を要する。所属長が不在の場合は、あらかじめ指定された代理者が承認する。申請者本人が自己の申請を承認することはできない。

第7条(交通費) 通勤手当は最も経済的かつ合理的な経路により算定し、所得税法上の非課税限度額を上限とする。業務上の移動に係る交通費は実費を支給する。定期区間内の移動は申請できない。タクシーの利用は、公共交通機関が利用できない場合または深夜早朝の時間帯に限り、利用理由を記載して申請する。

第8条(出張旅費) 出張の宿泊費および日当は別表に定める額による。別表の額を超える支出は、事前に所属長の承認を得た場合に限り実費を支給する。

第9条(交際費) 得意先等との飲食費の申請には、飲食の年月日、参加者の氏名・所属および人数、飲食店の名称・所在地を記載する。社内の者のみによる飲食は、得意先等との飲食費と区分して申請する。社内の者のみによる飲食を福利厚生費として処理できるのは、全社員をおおむね一律の対象とする慰安行事等、一定の要件を満たす場合に限られるため、科目の区分は経理部が判定する。

第10条(改廃) この規程の改廃は取締役会の決議による。別表の改定は経理部長の決裁による。

◯の部分は自社で決める数字です。第4条の申請期限と第6条の承認金額は、決めないまま運用を始めると必ず形骸化します。あわせて、施行日と改定履歴を規程の末尾に置き、いつからどの版が有効かを明示してください。

曖昧な条文を判定できる形に直す3つの型

ひな形をそのまま使っても、自社の事情を書き足す段階でまた曖昧な条文が混ざります。書き換えの型は3つです。

直す前直した後何が変わるか
社会通念上妥当な範囲とする1件5,000円を上限とし、超過分は事前承認を得た場合に限り支給する金額で判定できる
必要に応じて領収書を添付する全件で領収書を添付する。領収書が発行されない交通費は、経路と区間を記載する例外の条件が特定される
私的な支出は認めない業務との関連が説明できない支出は認めない。判断に迷う場合は事前に経理部へ照会する判定の主体と手順が決まる

共通しているのは、「誰が・何を見て・どう判定するか」が条文から読み取れるかという一点です。書いた条文を1つずつ読み、「この条文だけを渡されたチェック担当者が、申請データを見て可否を決められるか」を自問してください。決められない条文は、運用開始後に必ず属人的な判断に化けます。

この観点は、チェックをシステムやAIに任せる場合にはさらに効きます。「社会通念上妥当な範囲」は人間でも判定がぶれますが、機械には最初から判定できません。規程を判定可能に書くことは、そのままチェックを自動化できる状態に近づくことでもあります。

作った後:改定と周知をどう回すか

規程は作った日が最も実態に近く、そこから毎月ずれていきます。ずれを拾う仕組みを最初に決めてください。

月次で数えるのは3つ。差し戻し件数とその理由、上限超過の申請件数、経理への照会件数です。同じ理由の差し戻しが毎月10件出ているなら、それは申請者の不注意ではなく条文か申請フォームの問題です。照会が集中している条文は、判定できない形で書かれている条文だと考えてください。

改定は、条文本体と別表を分けておけば軽くなります。日当や上限金額の変更は別表の差し替えだけで済ませ、承認ルートや申請期限を変えるときだけ本体を改定する。改定したら施行日を明記し、施行日前に支出した経費は旧規程で処理するかどうかを決めておきます。ここを決めないと、改定月の申請が混乱します。

周知は、配布して終わりにしないこと。規程の全文を読む従業員はほとんどいません。現場に届くのは申請フォームの入力欄と注意書きです。規程を改定したら、フォームの項目名・必須設定・注意文言を同時に直してください。規程とフォームがずれている会社では、従業員はフォームに従います。

経費精算のチェックは、規程が整っていても件数が増えれば追いつかなくなります。当社の4649経費チェックは、申請内容と領収書の金額・日付・宛名の突合、自社の経費規程との照合、二重申請の検出、インボイス要件の確認をAIが全件行い、要確認の申請を根拠つきで報告するメニューです。社内では言いにくい差し戻しを第三者の立場で指摘できるため、規程を作ったあとの運用を回す側の負担を減らせます。経理業務全体をどこまで外部に出せるかは経理代行はどこまで丸投げできるかを参照してください。


経費精算規程で本当に決めるべきなのは、上限金額ではありません。判断が分かれたときに、誰が何を見て決めるかです。金額は実態に合わせて動かせばよく、動かすための手順を条文に持たせておけば規程は陳腐化しません。ひな形の10条を自社の言葉に置き換え、各条文を「チェック担当者が判定できるか」で読み直す——この2ステップで、規程は運用される文書になります。

よくある質問

Q. 経費精算規程と旅費交通費規程は分けるべきですか?
申請件数が多くない会社なら1本にまとめて構いません。分けるかどうかの判断基準は、条文の量ではなく改定の頻度です。出張の日当や宿泊費の上限は、役職の新設や拠点の増加で動きます。一方で申請期限や承認ルートは、いったん決めれば数年変わりません。動く条文と動かない条文が1本の規程に混在すると、日当を変えるたびに規程全体を承認し直すことになります。出張が多く上限表をよく触る会社は、経費精算規程に「出張旅費の額は別表による」と書き、別表だけを差し替える形にすると改定が軽くなります。
Q. 規程に書いた上限を超える申請は、必ず却下しなければいけませんか?
いいえ。実務で必要な超過はあります。問題になるのは、超過を認めるかどうかが担当者の判断に委ねられていて、記録が残らないことです。規程には上限そのものよりも、超過したときの扱いを書いてください。「上限を超える申請は事前に部門長の承認を得る」「事後申請となった場合は理由書を添付し、経理部長が承認する」といった形で、例外の通り道を条文に用意します。例外を条文化しておけば、承認者と根拠が申請データに残り、月次で件数を数えられます。超過が毎月続く項目は、上限そのものが実態に合っていないサインなので、次の改定で見直します。
Q. 規程を作れば税務調査で指摘されなくなりますか?
規程があること自体が税務上の根拠になるわけではありません。たとえば出張日当が所得税の非課税として扱われるには、その旅行に通常必要と認められる範囲であることが前提で、規程に書いた金額であれば自動的に認められるものではありません。ただし、支給基準が規程と別表で定められ、全社員に同じ基準が適用されていることは、金額の合理性を説明するうえで意味を持ちます。規程は説明の出発点であり、それだけで結論が決まる書類ではない、という位置づけです。自社の支給額が通常必要と認められる範囲に収まるかどうかの個別の判断は、顧問税理士にご確認ください。