電子帳簿保存法の対応:経理が最低限押さえる要件と判定手順
執筆: 4649編集部
電子帳簿保存法の3区分のうち、対応が義務づけられているのは「電子取引データ保存」の1つだけです。電子帳簿等保存とスキャナ保存は、やりたい会社がやればよい任意の制度。そして義務の側で満たすべき要件も、真実性の確保が1つと可視性の確保が2つ、合わせて3つしかありません。基準期間の売上高が5,000万円以下なら、検索機能は不要です。
対応が終わらない会社は、要件が多すぎて止まっているのではありません。自社にどの要件が掛かるのかを切り分けないまま、全部を満たそうとして止まっている。この記事では切り分けの順番と、要件ごとの最も負荷の低い満たし方を整理します。
義務は3区分のうち1つ。残り2つは任意の制度
電子帳簿保存法は、電子データによる保存を3つの区分に分けて定めています(国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト)。
| 区分 | 対象になるもの | 義務/任意 |
|---|---|---|
| ①電子帳簿等保存 | 会計ソフト等で最初から電子的に作成した帳簿・決算関係書類 | 任意 |
| ②スキャナ保存 | 紙で受け取った・紙で作成した請求書、領収書、契約書など | 任意 |
| ③電子取引データ保存 | 電子でやり取りした請求書、領収書、契約書、注文書など | 義務 |
①と②は「紙での保存に代えて電子で保存してもよい」という許可の制度です。使わなければ紙で保存し続けるだけで、違反にはなりません。義務なのは③だけで、こちらは**「紙に出力して保存する」という選択肢のほうが失われた**制度です。令和4年1月1日に施行され、2年間の宥恕措置を経て、令和6年1月1日以後にやり取りしたデータから本格適用されています(国税庁 令和6年1月からの電子取引データの保存方法)。
電帳法対応プロジェクトがスキャナ保存の要件検討から始まっているなら、順番が逆です。紙の電子化は業務改善のテーマであって、法対応のテーマではない。まず③を満たす。①②は余力の話です。
電子取引かどうかは、授受の手段だけで決まる
判定基準は1つです。その書類を電子でやり取りしたか。中身が請求書か注文書かは関係ありませんし、金額の大小も関係ありません。
電子取引に当たるのは、たとえば次のようなものです(国税庁 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】)。
- メールに添付されて届いたPDFの請求書、メール本文に金額が書かれた領収の通知
- 取引先のWebサイトや請求書配信サービスからダウンロードした請求書・利用明細
- ECサイトで備品を買ったときの注文確認メールと領収書データ
- クラウドサービスの利用料明細、クレジットカードの利用明細データ
- EDIで受け渡しした注文データ
一方、郵送で届いた紙の請求書は電子取引ではありません。これを写真に撮ってデータ化するかどうかは②スキャナ保存=任意の世界の話で、紙のまま保存しておけば法律上は問題ありません。
実務で厄介なのは、同じ取引先から紙とPDFの両方が来るケースです。月次の請求書は郵送、スポットはメール添付という取引先は珍しくない。ここで「この取引先は紙運用」と決め打ちすると、メールで来たほうが保存されないまま消えます。判定は取引先単位ではなく書類単位。それを人が毎回やるのは現実的ではないので、受信経路のほうを固定するのが早い。請求書の受領専用アドレスを1つ作り、誰が受け取っても最終的にそこへ転送される形にすれば、判定の問題が保存の問題に変わります。
経費精算も同じで、従業員がWebから落としたPDFの領収書を印刷して申請書に貼っている会社は、インボイスの記載事項は満たしていても電帳法の側を外します。申請区分の書き方は経費精算規程の作り方で整理しました。
満たすべき要件は、真実性が1つと可視性が2つ
電子取引データの保存要件は、大きく真実性の確保と可視性の確保に分かれます(国税庁 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】Ⅱ 適用要件【基本的事項】)。
真実性:4つの選択肢があり、事務処理規程がいちばん安い
次の4つのうち、いずれか1つを満たせば足ります。
- タイムスタンプが付与されたデータを受け取る
- 受け取った後、速やかにタイムスタンプを付与する
- 訂正・削除の履歴が残るシステム、または訂正・削除ができないシステムで授受・保存する
- 訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、備え付けて運用する
1と2はタイムスタンプの費用が掛かり、3はシステムの導入・移行が必要です。4なら、規程を1本作って運用するだけで済みます。しかも国税庁が法人用・個人事業者用のひな形をWordで公開しています(国税庁 参考資料(各種規程等のサンプル))。
ひな形をそのまま使う場合でも、2か所だけは自社の実態に合わせてください。データの保存場所と、訂正・削除が必要になったときの承認者です。空欄のまま、あるいは実在しない部署名のまま置かれた規程では、規程どおり運用していることを税務調査で示せません。要件は「備え付けて運用する」ことなので、作って共有フォルダに入れただけでは足りない。
すでに保存機能のあるサービスを使っているなら、3を選べて4の規程が不要になる場合があります。自社の契約プランが訂正・削除の履歴を残せるかは、ベンダーの公表している対応状況で確認してください。
可視性:装置と説明書、そして検索機能
一般の会社に掛かるのは2点です。
- 保存場所にディスプレイ・プリンタなどの見読可能装置と操作説明書を備え付け、画面と書面に整然とした形式・明瞭な状態で速やかに出力できること
- 検索機能を確保すること
これに加えて、自社開発のプログラムを使用する場合に限り、そのシステムの概要を記載した書類の備付けが要件になります。市販の会計ソフトやクラウドサービスだけを使っているなら、この要件自体が掛かりません。
1つ目は、通常の業務用PCとプリンタがあり、使っている会計ソフトのマニュアルを保管していれば実質的に満たせます。作業が発生するのは検索機能だけです。そしてこれは、多くの中小企業で不要になります。
検索要件が要るかどうかは、前々期の売上高で決まる
検索機能の要件は、取引年月日その他の日付・取引金額・取引先の3項目で検索でき、日付と金額は範囲を指定でき、2つ以上の項目を組み合わせて検索できること——というのが原則です。ただし緩和が二段構えで用意されています。
| 自社の状況 | 必要な検索機能 |
|---|---|
| 税務職員のダウンロードの求めに応じられる | 範囲指定・2項目以上の組み合わせは不要(3項目での検索のみ) |
| 判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下 | 検索機能はすべて不要 |
| 出力書面を日付・取引先ごとに整理して提示・提出できる | 検索機能はすべて不要 |
下2つはどちらも、ダウンロードの求めに応じられることが前提になります。基準期間は法人なら前々事業年度、個人事業者なら前々年です。この売上高の基準は令和5年度税制改正で1,000万円以下から5,000万円以下に引き上げられ、対象がかなり広がりました(国税庁 パンフレット(過去の主な改正を含む))。
つまり前々期の売上が5,000万円以下の会社は、データを決まった場所に消さずに置いておき、求められたら渡せる状態にしておけば、検索の要件は掛かりません。ファイル名を「20260921_A商事_132000.pdf」の形に付け替える作業は、この会社には不要です。電帳法対応をファイル名の一括リネーム作業だと思い込んでいる現場は多いのですが、まず自社が緩和の対象かどうかを確認するほうが先。
3つ目の「出力書面を整理して提示できる」は売上規模を問わない緩和で、紙での整理を続けている会社には現実的な選択肢です。ただし不要になるのは検索機能だけで、データの保存が免除されるわけではありません。紙のファイルは完璧なのにデータが残っていない、が最悪の形。
なお検索対象の3項目は、支払管理の重複チェックで使うキーと同じです(二重払いを防止する仕組み)。リネーム作業として片づけるか台帳整備として設計するかで、同じ工数の見返りが変わります。
要件を満たせないときの猶予措置は、申請不要だが無条件ではない
令和6年1月1日以後は、要件に従った保存ができない場合の猶予措置が用意されています。適用には次の2つをいずれも満たす必要があります。
- 保存時に満たすべき要件に従って保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認めること(事前の申請や届出は不要)
- 税務調査等の際に、電子取引データのダウンロードの求め、および出力書面(整然とした形式・明瞭な状態で出力されたものに限る)の提示・提出の求めに応じられるようにしていること
「相当の理由」として想定されているのは、システムやワークフローの整備が間に合わない、資金繰りや人手の都合で要件どおりの保存ができない、といった事情です。事前申請が要らないぶん、使えるかどうかは後から判定されると理解しておくのが安全でしょう。
効いてくるのは2つ目です。猶予措置を使う場合でも、電子取引データそのものは保存していなければなりません。宥恕措置(令和4年1月1日〜令和5年12月31日)は書面での保存を認める形でしたが、猶予措置はデータの保存を前提に、要件の充足だけを猶予する仕組みです。「猶予措置があるから紙で大丈夫」という理解は、ここで間違います。データは消さない。これだけは例外なく先に決めてください。
スキャナ保存に手を出すなら、入力期限が最初の関門
紙の保管コストを減らしたい会社には、任意とはいえスキャナ保存の実益があります。読み取りは解像度200dpi以上、赤・緑・青それぞれ256階調以上。タイムスタンプは、訂正・削除の履歴がすべて残るシステムに保存するなら不要です。検索機能は電子取引と同じ3項目で、緩和の考え方も同じ(国税庁 電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】、同 Ⅱ 適用要件【基本的事項】)。
運用が崩れるのは入力期間です。契約書・領収書などの重要書類は、業務処理サイクル方式で最長2か月とおおむね7営業日以内にスキャンして保存まで終える必要があります。月次の締めが翌月末近くまでかかっている会社がここに手を出すと、締め作業とスキャン期限が同じ週に重なる。一般書類に入力期限の定めはないので、始めるなら見積書・注文書から、というのが現実的な順序です。
2027年1月から、保存の仕方で重加算税の扱いが変わる
ここまでは現在の義務の話。もう一つ、保存方法の選び方が変わる改正が控えています。
電子取引データに関する隠蔽・仮装があった場合、重加算税は10%加重されます。令和7年度税制改正では、国税庁長官の定める基準に適合する特定電子計算機処理システムを使って電子取引データをシームレスに授受・保存し、一定の要件を満たしている場合に、この加重措置の対象から除外する仕組みが設けられました。適用は令和9年(2027年)1月1日以後に法定申告期限が到来する国税からです(財務省 令和7年度税制改正 納税環境整備)。
いわゆるデジタルシームレス保存の方向づけで、制度の軸が「紙をやめたか」から「データが人手を介さずに流れているか」へ移りつつあります。いま保存方法を選び直す会社は、2027年の基準を前提に選んだほうが手戻りがない。 請求書受領サービスや会計ソフトを入れ替えるタイミングにあるなら、ベンダーがこの基準にどう対応する予定かを確認事項に入れておいてください。最新の改正状況は国税庁の特設サイトで更新されます。
任意の①電子帳簿等保存にも見返りはあります。要件の厳しい「優良な電子帳簿」に該当し、あらかじめ届出書を所轄税務署長に提出しておけば、その帳簿に関する申告漏れがあった場合の過少申告加算税が5%軽減されます(国税庁 電子帳簿・電子書類関係)。事前提出が条件なので、調査が入ってからでは間に合いません。
最初の1か月でやること
順番に片づければ、4ステップで終わります。
- 前々期の売上高を確認する。 5,000万円以下なら検索機能は不要。この1行で作業量が大きく変わるので、必ず最初に確認する
- 電子で受け取っている書類を洗い出す。 経理のメールボックス、各部署の個人メール、取引先のWebポータル、ECサイト、カード明細。抜けやすいのは経理を経由しない現場部門の受領です
- 保存場所を1か所に決めて、消さない運用にする。 共有フォルダでも保存機能のあるサービスでも構いません。要件の充足はその後でよく、データを失わないことが先
- 真実性の措置を選ぶ。 使っているシステムが訂正・削除の履歴を残せるなら3、そうでなければ国税庁のひな形をもとに事務処理規程を整備する
自社の特定の取引が電子取引に当たるか、猶予措置の「相当の理由」に該当するかといった個別の判断は、税務上の判断です。ここは税理士の領域なので、顧問の会計事務所がいる会社は期首や決算の打ち合わせで方針を一度すり合わせておくと、月次のたびに個別照会せずに済みます。事務所側は複数の顧問先で同じ論点を見ているぶん、自社だけで調べるより判断が早い。
電帳法対応で実際に負荷が掛かるのは、要件を理解することではありません。毎月届く数百件のデータを、抜けなく同じ場所に集め続けることです。当社の4649経理代行では、チャットで送られた請求書・領収書・通帳をもとにAIと専門チームが根拠つきで記帳し、4649仕訳チェックが勘定科目・税区分の誤り、二重計上、期ずれといった観点で全仕訳を確認します。ただし証憑の保存そのものは要件を満たすシステム側の役割で、当社が引き受けるのは記帳と点検の工程です。どこまで外に出せるかの整理は経理代行はどこまで丸投げできるかにまとめています。
電帳法対応の全体像は、突き詰めると3行です。義務は電子取引データ保存だけ。要件は真実性が1つと可視性が2つ。前々期の売上が5,000万円以下なら検索機能は不要。この3行で自社に掛かる要件が確定したら、あとは保存場所を決めて消さない運用にするだけで、大半は片づきます。残るのは2027年の基準をどう取りにいくかという、法対応ではなく投資判断のほうの問題です。
よくある質問
- Q. 電子取引データを印刷して紙のファイルに綴じる運用は、まだ認められませんか?
- データを保存したうえで紙にも出力しておくのは自由ですが、紙だけを残してデータを消す運用は認められません。令和4年1月1日から令和5年12月31日までは宥恕措置により書面保存でも差し支えないとされていましたが、この措置は期限をもって廃止され、令和6年1月1日以後にやり取りしたデータからは新しい猶予措置に切り替わっています。猶予措置の側も、出力書面の提示・提出に応じられることに加えて、電子取引データそのもののダウンロードの求めに応じられることを条件にしています。つまりどちらの道を通っても、元データを捨ててよいという結論にはなりません。保存場所が共有フォルダでもメールボックスでも構わないので、まず消さない運用を先に固めてください。
- Q. 検索用にファイル名を「日付_取引先_金額」に付け替える作業は必須ですか?
- 検索要件が掛かる会社では有効な手段の一つですが、全社で必須の作業ではありません。判定期間に係る基準期間(法人は前々事業年度、個人は前々年)の売上高が5,000万円以下の保存義務者、または出力書面を取引年月日その他の日付および取引先ごとに整理した状態で提示・提出できるようにしている保存義務者は、税務職員のダウンロードの求めに応じられることを条件に、検索機能の要件そのものが不要とされています。自社がこのどちらかに当たるなら、リネーム作業に人手を割く必要はありません。該当しない場合も、索引簿を1本作って日付・金額・取引先を記録する方法や、検索機能を備えたシステムに集約する方法があり、リネームは選択肢の一つにすぎません。
- Q. 電子帳簿保存法の対応を経理代行に任せれば、自社の義務は果たしたことになりますか?
- なりません。保存義務者はあくまで自社であり、外部に業務を委託しても義務の主体は移りません。委託できるのは、データを集めて整理し、帳簿と突き合わせるといった作業の部分です。保存先のシステムやストレージを要件に合う形で用意し、そこにデータが残り続ける状態を維持する責任は自社に残ります。委託する場合は、受け渡したデータの原本をどちらが、どこに、いつまで保存するのかを契約段階で決めておいてください。なお、自社の個別の取引が電子取引に当たるかどうか、猶予措置の「相当の理由」に該当するかどうかといった判断は税務上の判断になるため、顧問の税理士にご相談ください。