インボイス経過措置:2026年10月から50%でなく70%
執筆: 4649編集部
免税事業者など適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れについて、仕入税額相当額の80%を控除できる経過措置は、2026年(令和8年)9月30日の課税仕入れで終わります。ただし10月1日からの控除割合は、当初の予定だった**50%ではなく70%**です。令和8年度税制改正で経過措置が2年延長され、70%、50%、30%と段階的に下がる形に変わりました。
「10月から50%」と覚えたまま会計ソフトの税区分や取引先への説明を組んでいると、控除額の計算そのものを誤ります。この記事では、何が変わって何が変わらないのかを一次ソースで確定させたうえで、9月と10月をまたぐ取引の分け方、仕訳、会計ソフトの切り替え手順を整理します。
2026年10月からの控除割合は50%ではなく70%
インボイス制度の開始時点では、経過措置は「令和5年10月から3年間が80%、令和8年10月から3年間が50%、令和11年9月30日で終了」という2段階の設計でした。令和8年度税制改正でこれが4段階に組み直され、終了時期も令和13年9月30日まで延びています(国税庁 令和8年度税制改正特集、財務省 令和8年度税制改正の大綱)。
| 課税仕入れの時期 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 令和5年10月1日〜令和8年9月30日 | 80% | 80% |
| 令和8年10月1日〜令和10年9月30日 | 50% | 70% |
| 令和10年10月1日〜令和11年9月30日 | 50% | 50% |
| 令和11年10月1日〜令和12年9月30日 | 終了 | 50% |
| 令和12年10月1日〜令和13年9月30日 | 終了 | 30% |
| 令和13年10月1日〜 | 終了 | 終了 |
「インボイス 経過措置 50%」で検索して改正前の解説記事にたどり着くと、この表の左列を見ることになります。2026年に読む資料は、「70%」という数字と、令和13年(2031年)9月という終了時期が出てくるかで、改正後の情報かどうかを見分けてください。
あわせて、同じ改正で経過措置の適用に係る上限額が引き下げられました。こちらは後述しますが、一般的な会社ではほとんど該当しません。
変わらないもの:帳簿への記載と請求書の保存
割合は変わりますが、経過措置を受けるための要件は同じです。帳簿には通常の記載事項に加えて「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を記載し、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等を保存します。国税庁は帳簿の記載例として「80%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」といった表記を挙げています(国税庁インボイスQ&A「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」)。10月1日以後の取引は「70%控除対象」のように、その時点の割合に合わせた記載にしておけば、後から見返したときに迷いません。
実務では、この帳簿記載を手で書いている会社はまずありません。会計ソフトの税区分(「免税事業者等からの課税仕入れ 80%」のような区分)を選ぶことで、帳簿の記載要件を機械的に満たしているのが普通です。だから10月の切り替えで本当にやることは、制度の理解よりも税区分マスタの切り替えと、9月分・10月分の仕分けになります。
もう一つ変わらないのは、経過措置の対象が「適格請求書発行事業者以外の者」だという点です。免税事業者だけでなく、消費者や、課税事業者だが登録していない事業者からの仕入れも含みます。判定は取引先の規模ではなく請求書・領収書に登録番号があるかで行います。受領側の判定手順はインボイス制度の領収書要件で整理しました。
割合を決めるのは請求日でも支払日でもなく「課税仕入れを行った日」
80%と70%の境目は、令和8年10月1日に「課税仕入れを行った」かどうかで引かれます。商品の購入なら引渡しの日、役務の提供なら契約した役務の全部が完了した日です。国税庁は次の2つの例を示しています(国税庁インボイスQ&A「令和8年10月1日前後の取引に係る免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用」)。
- 令和8年9月21日に開始し、10月20日に完了した役務の提供は、全体が10月1日以後の課税仕入れとなり70%で計算する
- 9月21日から10月20日までの間に継続して仕入れた商品は、引渡しの日ごとに判定し、9月21日〜30日の引渡し分は80%、10月1日〜20日の引渡し分は70%で計算する
ここで経理が間違えやすいのは、締め日で処理している取引です。20日締めの取引先から届く「9月21日〜10月20日分」の請求書は、商品仕入れであれば必ず80%と70%が混在します。請求書1枚をそのまま1本で起票せず、納品書の日付で2本に分ける必要があります。役務提供は逆で、9月に着手した保守や制作でも10月に完了していれば全額70%です。着手日で判定しないでください。
この「いつの課税仕入れか」という論点は、期末の期ずれの判定と同じ考え方です。年払いや長期の契約で役務提供の時期をどう見るかは契約の内容で結論が分かれるので、金額の大きい取引は顧問税理士と事前に整理しておくのが安全です。
仕訳例:税抜経理では仮払消費税等の額が変わる
経過措置を適用する場合の税額は、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の7.8(軽減税率対象は108分の6.24)を乗じた金額に、経過措置の割合を乗じて計算します。割戻し計算と積上げ計算のどちらで仕入税額を計算するかは、適格請求書発行事業者からの仕入れと同じ方法によります(国税庁インボイスQ&A「免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置を適用する場合の税額計算」)。
日々の仕訳で効いてくるのは、税抜経理方式を採る会社です。国税庁は法人税の取扱いとして、80%の経過措置期間中に免税事業者から課税仕入れを行った場合、インボイス制度前であれば仮払消費税等となる金額の80%相当額を仮払消費税等とし、残額は取得価額(費用)に含める考え方を示しています(国税庁「経過措置期間中に免税事業者から課税仕入れを行った場合の法人税の取扱い」)。控除できない部分が費用や資産に乗る、という構造です。
免税事業者のデザイナーに制作費110,000円(税込)を支払う取引で比べます。
9月30日以前の納品(80%)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 外注費 | 102,000 | 普通預金 | 110,000 |
| 仮払消費税等 | 8,000 |
10月1日以後の納品(70%)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 外注費 | 103,000 | 普通預金 | 110,000 |
| 仮払消費税等 | 7,000 |
消費税相当額10,000円のうち、控除の対象になる7,000円だけが仮払消費税等になり、残りの3,000円が外注費に乗ります。取引が固定資産の取得であれば、この3,000円は取得価額に含まれ、減価償却を通じて費用化されます。
税込経理方式の会社は、仕訳そのものは「外注費 110,000 / 普通預金 110,000」のまま変わりません。差は申告時の仕入税額控除の計算に出るだけなので、税区分さえ正しければ帳簿上の見た目は9月と10月で同じです。逆に言えば、税込経理では仕訳を見ても誤りに気づけないので、税区分の点検が唯一の防波堤になります。
会計ソフトの税区分と9月・10月の切り替え手順
10月の月次を締めるまでに終わらせる作業を、順番に並べます。
- 税区分マスタに70%の区分があるかを確認する。 会計ソフトのアップデートで追加されるのが通常ですが、適用のタイミングはソフトごとに異なります。10月の入力を始める前に、ベンダーの案内で対応状況を確認してください
- 取引先マスタで、適格請求書発行事業者以外の相手にフラグを立てる。 10月1日以後の取引の既定の税区分を70%に切り替えるのは、この一覧に対してです。登録番号がない取引先を抽出すれば作れます
- 10月・11月に入力する取引のうち、証憑の日付が9月30日以前のものを80%に戻す。 経費精算は申請が翌月にずれるので、10月の精算に9月の領収書が大量に混ざります。申請日ではなく領収書の日付で区分してください
- 9月分と10月分が混在する請求書を2本に分ける。 20日締め・15日締めの取引先の請求書が対象です。納品書や役務完了の記録で日付を確認します
- 前払費用・未払費用で処理している役務を、完了日で見直す。 経過措置の割合は完了日で決まるので、経過勘定で期間按分している取引は、按分の期間ではなく完了した日で判定します。ただし、法人税の短期前払費用の特例で支払時に全額を損金算入している取引は例外で、支出した日における控除割合を、短期前払費用として経理した全額に適用できます(国税庁インボイスQ&A「短期前払費用に係る免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用」)。9月中に支払った年払いの保守料は、役務の提供期間が10月以後にまたがっても全額80%です
- 10月の月次で、免税事業者等からの仕入れの税区分を全件見る。 80%区分に10月の取引が残っていないか、70%区分に9月の取引が混ざっていないかを、証憑日付と突き合わせます
取引先マスタの既定値が間違っていれば、以後の毎月に同じ誤りが複製されます。10月の月次で全件を一度見ておけば、既定値の誤りをその月のうちに潰せます。
年間1億円の上限:同じ相手から大口で仕入れている会社だけ確認する
令和8年度税制改正では、もう一つ変更が入りました。一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額が、その年(個人事業者)または事業年度(法人)で1億円を超える場合、超える部分については経過措置の適用が認められません。改正前は10億円だった基準が1億円に引き下げられました。適用されるのは割合が切り替わる10月1日からではなく、令和8年10月1日以後に開始する課税期間からです。3月決算法人なら令和9年4月1日開始の事業年度(令和10年3月期)からで、その直前の課税期間(令和9年3月期)は、控除割合が70%になったあとも上限は改正前の10億円のままです(国税庁 令和8年度税制改正特集)。
判定の単位は「同じ相手からの合計」です。免税事業者からの仕入れが全体で1億円を超えても、取引先ごとに1億円以下なら上限には当たりません。該当しうるのは、消費者や免税事業者から高額な資産を反復して仕入れる業種、たとえば中古車や不動産、貴金属の買取などに限られます。免税事業者の取引先別に年間の仕入額を一度集計しておけば、該当の有無はすぐに確認できます。該当しそうな会社は、判定期間や適用開始の細部を顧問税理士に確認してください。
取引先側で起きること:2割特例の終了と登録状況の再確認
10月1日は、仕入れる側だけの区切りではありません。免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者の納税額を売上税額の2割に抑える2割特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間で終わります(国税庁 2割特例 特設ページ)。個人事業者のうち、免税事業者からインボイス発行事業者になった人には、令和9年分と令和10年分の納税額を売上税額の3割とする3割特例が令和8年度税制改正で設けられましたが、法人には同様の措置がありません(国税庁 令和8年度税制改正特集「3割特例の創設」)。
つまり、これまで2割特例で登録を続けてきた取引先の中に、負担を見比べて登録をやめ、免税事業者に戻る事業者が出てきます。登録の効力が失われた日以後の請求書には登録番号が付かなくなり、その取引は経過措置の区分に移ります。取引先マスタは一度作って終わりではなく、国税庁 適格請求書発行事業者公表サイトで取引日時点の登録状況を確認する運用が要ります。
取引先が免税事業者に戻る、あるいは控除割合が下がることを理由に、取引価格の引下げを一方的に通告することは、財務省・公正取引委員会などが公表しているQ&Aで独占禁止法や下請法上問題となるおそれがあるとされています(公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」)。価格の見直しをするなら、控除できなくなる金額を示したうえで双方が協議する形に限られます。経理は交渉の当事者ではありませんが、取引先別に「10月以後に控除できなくなる額」を出す役はまわってきます。先ほどの取引先別集計がそのまま使えます。
自社が簡易課税に切り替えるべきか、取引先との条件変更が税務上どう影響するかといった判断は税理士の領域です。経理側で用意しておくべきなのは判断そのものではなく、免税事業者等からの仕入れが取引先別・月別にいくらあるかという、判断の材料になる数字です。
切り替え月の税区分の点検は、件数が多いうえに全件見ないと意味がない類の作業です。当社の4649仕訳チェックは、勘定科目や消費税の税区分の誤り、二重計上、期ずれを観点に、サンプルではなく全仕訳をAIでチェックし、修正が必要な仕訳を根拠つきで報告します。記帳は自社や顧問の会計事務所で行い、チェックだけを切り出して任せる使い方ができます。税区分の立て方そのものは消費税の税区分の判定にまとめました。
2026年10月の切り替えで覚えることは3つです。控除割合は50%ではなく70%。境目は請求日でも支払日でもなく課税仕入れを行った日。そして要件は変わらず、帳簿の記載は会計ソフトの税区分で満たす。この3つが決まっていれば、残る作業は取引先マスタの既定値を切り替え、10月の月次で9月分と10月分を分け切ることだけです。
よくある質問
- Q. 「2026年10月から50%」という情報と「70%」という情報があり、どちらが正しいですか?
- 70%です。インボイス制度の開始時点では、免税事業者等からの課税仕入れの控除割合は令和5年10月から3年間が80%、令和8年10月から3年間が50%で、令和11年9月30日に経過措置が終わる設計でした。令和8年度税制改正でこの経過措置が見直され、令和8年10月1日から令和10年9月30日までは70%、令和10年10月1日から令和12年9月30日までは50%、令和12年10月1日から令和13年9月30日までは30%と、段階が細かくなったうえで期間が2年延びました。「10月から50%」と書かれた記事や資料は改正前の情報です。判断の起点は国税庁の令和8年度税制改正特集ページに置いてください。
- Q. 9月に納品を受けて10月に請求書が届き、支払いも10月の取引は、80%と70%のどちらですか?
- 80%です。経過措置の割合は、請求書の日付や支払日ではなく、課税仕入れを行った日で決まります。商品の購入であれば引渡しの日、役務の提供であれば契約した役務の全部が完了した日が基準です。9月中に引渡しを受けた商品は、請求書が10月付でも支払いが10月でも、令和8年9月30日以前の課税仕入れとして80%で処理します。逆に、9月に着手して10月に完了した役務は、着手日が9月でも全体が10月1日以後の課税仕入れとなり70%です。1枚の請求書に9月納品分と10月納品分が混在する場合は、納品書などで日付を確認して2本に分けて計上してください。
- Q. 取引先の個人事業主から「2割特例が終わるので登録をやめる」と言われました。経理側は何を変えればよいですか?
- 登録の効力が失われた日以後の取引は、適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れとして経過措置の区分(令和8年10月1日以後は70%)で処理し、帳簿に経過措置の適用を受ける旨を記載します。取引先マスタの登録番号を空にして既定の税区分を変えるだけで対応できますが、いつから効力が失われるのかは国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認してください。なお、登録をやめることを理由に取引価格の引下げを一方的に通告することは、公正取引委員会などのQ&Aで独占禁止法や下請法上問題となるおそれがあるとされています。価格の見直しをするなら双方で協議したうえで進めてください。自社の消費税の課税方式や取引先との条件変更の税務上の影響は税理士の領域なので、顧問税理士に相談することをおすすめします。