経理の人手不足を解決する3つの選択肢:採用・システム・外注
執筆: 4649編集部
経理の人手不足は、人を増やせば解決する問題ではありません。足りないのは頭数ではなく、**月次を締められる「判断のできる人」**です。そしてその人の時間が、証憑の入力・突合・消込といった判断の要らない作業に食われている状態が、人手不足の正体です。だから解き方は、採用・システム・外注のどれか1つを選ぶことではなく、業務を「判断が要る仕事」と「要らない仕事」に切り分け、後者を減らしてから前者に人を当てること。
この記事では、公的統計で経理の採用が決まらない構造を確認したうえで、3つの選択肢それぞれが効く範囲と限界、会社の状態別にどう組み合わせるかの判定表、経理が1人で回っている会社が最初の90日でやる備えをまとめました。
経理の採用が決まらないのは、事務職が足りないからではない
数字から入ります。帝国データバンクの人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)では、正社員が不足していると答えた企業は51.3%。7月時点としては4年連続で5割を超え、業種別では金融67.1%、建設66.0%、運輸・倉庫65.6%が上位です。
ところが職業別の求人倍率を見ると、事務職は逆の景色になっています。厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年6月分)では、全職業の有効求人倍率(季節調整値)が1.18倍なのに対し、職業別(常用、パートを除く)の事務的職業は0.36倍。求人1件に求職者が約3人いる計算で、建設・採掘の5.49倍とは15倍以上の開きがあります。なお直近の令和8年7月分でも、全職業の有効求人倍率は1.18倍で前月と同水準です。
経理は、この事務的職業に含まれます。つまり統計上は「事務の仕事をしたい人」が求人を上回っている。それでも経理の募集が決まらないのは、会社が求めているのが事務の頭数ではなく、科目を判断し、残高の不一致を追い、月次を締められる人だからです。事務職の求職者が求人の3倍いても、その全員が月次を締めた経験を持つわけではない。求人票の要件がそこにある以上、0.36倍という数字が示す求職者の厚みは、経理の採用には直接効きません。応募は来るのに採れない、という現場の感覚はここから来ています。
この構造がわかると、打ち手の順番が決まります。判断できる人を採用で増やすのは、3つの選択肢の中で最も時間がかかり、最も再現性が低い。先に、判断できる人の時間を食っている作業を減らすほうが早い。
3つの選択肢を比べる前に、業務を2つに分ける
採用・システム・外注のどれが正しいかは会社ごとに違います。ただし比べる前にやることは共通で、経理業務を「判断が要らない仕事」と「判断が要る仕事」に分けることです。
| 判断が要らない仕事(減らす対象) | 判断が要る仕事(人を当てる対象) |
|---|---|
| 証憑の受領・読み取り・データ化 | 勘定科目・税区分の方針決定と例外の判断 |
| ルールが決まっている定型仕訳の起票 | 経過勘定・引当金など見積りを伴う計上 |
| 入金消込、残高照合の突合作業 | 残高不一致の原因究明と修正の決定 |
| 経費申請と領収書の突合、規程との照合 | 規程そのものの改定、判断の分かれる申請の承認 |
| 発注書・納品書・請求書の三点照合 | 支払の承認と送金の実行 |
| 減価償却費の計算・計上 | 資産計上か費用処理かの判断 |
右列を見てください。どれも件数は少ない。中小企業の1人経理であれば、月に数件から数十件です(部門別・セグメント別の管理をしている会社や上場水準の体制では、判断の件数も工数もこの範囲には収まりません)。左列は逆で、件数が多く、時間の大半を占めます。1人経理の会社で担当者が「忙しくて月次が締まらない」と言うとき、その人の時間を占めているのはほぼ左列です。
そして左列は、ルールさえ文書になっていれば、システムでも外注でも処理できる仕事です。人手不足の解決とは、右列に人を当て、左列を人から剥がすことにほかなりません。この分け方をせずに採用から入ると、せっかく採った経験者が入力作業に埋まり、半年後には同じ「人が足りない」に戻ります。
なお右列のうち、申告書の作成・税務相談・税額の計算といった税務判断は税理士の独占業務です(税理士法第2条・第52条)。ここは社内の判断者でも経理代行会社でもなく、顧問税理士の領域として最初から分けておいてください。
選択肢① 採用:判断できる人がゼロなら、まずここ
採用が効くのは、右列を担う人が社内にいない場合です。経営者が自分で科目を決め、税理士に毎月聞きながら回している会社は判断者がいないのと同じ状態なので、1人は必要になります。
ただし採用で解決できるのは「判断者を1人置く」ことまでで、「業務量を減らす」ことではありません。募集、選考、内定、前職の退職手続きを経て入社するまで月単位の時間がかかり、入社後に自社の取引と会計ソフトに慣れるまでにさらに時間がかかる。その間、業務は今の体制で回し続けるしかない。
もうひとつ。1人採って1人体制にするなら、その人が休職・退職したときに業務が止まる構造は変わりません。採用で1人体制を作った会社が数年後に直面するのは、今とまったく同じ人手不足です。採用を選ぶなら、その人に左列の作業を渡さない設計をセットにしてください。判断者の時間を判断に使わせる。これが採用の投資を回収する唯一の方法です。
採用に向く会社は、判断者が社内にゼロの会社、取引が複雑で社内に方針を決める人が要る会社、経理を経営管理の機能として育てたい会社です。
選択肢② システム:判断者がいて、その時間を空けたいなら
会計ソフトの銀行連携、AI-OCRによる証憑の読み取り、経費精算システムの規程チェック。これらは左列の作業時間を直接減らします。判断者がすでにいて、その人が左列に埋もれている会社では、最初に効く選択肢です。
ただし、システムは前提条件が揃っていないと動きません。証憑が電子で入ってくるか、科目や税区分の判断ルールが文書になっているか、自動処理が保留した取引を誰が見るか決まっているか。この条件と業務別の着手順は経理の自動化はどこから始める?で整理しましたが、人手不足の文脈で特に効くのは2つ目です。判断ルールが担当者の頭の中にしかない会社では、ツールを入れても保留だらけになり、結局その担当者が全部見ることになる。判断ルールの文書化は、システム導入の準備であると同時に、担当者が辞めても業務が止まらないための備えでもあります。
もうひとつの限界は、システムは例外を処理しないことです。振込名義が請求先と違う入金、様式が変わった請求書、規程にない経費。こうした例外は必ず出て、誰かが判断します。システムで左列を大きく減らせても、残った例外と右列の判断は人に残る。ここを見落として「システムを入れたから経理はいらない」と考えると、例外が溜まって月次が止まります。
システムに向く会社は、判断者がいる会社、証憑の大半が電子で入る会社、判断ルールを書ける人がいる会社です。
選択肢③ 外注:判断者を採れないなら、左列ごと外に出す
判断者がいない、採用も決まらない、という会社では、左列を業務ごと外に出すのが最短です。記帳代行・経理代行の一般的なサービスは、証憑を渡せば起票から突合・照合まで引き受けます。採用と違って契約から稼働までが短く、担当者の退職で止まらない。システムと違って、例外の一次判断まで委託先の担当者が行う形が取れます。
会計事務所との関係は「乗り換え」ではなく「分担」です。顧問税理士は申告と税務判断を担い、日々の記帳や月次の締めをどこが担うかは別の設計になります。事務所が記帳まで受けているなら、自社側の証憑の渡し方を変えるだけで事務所の作業が減り、月次が早まることもある。外注を検討するときは、まず顧問税理士に現状の分担と課題を共有してください。分担が整理されて困る事務所はありません。
外注しても社内に残る仕事があります。支払の承認と送金の実行、帳簿・証憑の保存義務、実地棚卸や現金実査のような現物確認。そして委託先に規程や判断ルールを渡す作業。社内に残る業務の一覧は経理代行はどこまで丸投げできる?にまとめています。
当社の4649経理代行は、この左列をAIと専門チームで引き受ける形です。4649記帳代行では、従来2週間かかっていた記帳作業が1日に短縮された事例があります(※実際のご利用者様の事例です。納期は業務内容やボリュームにより異なります)。処理の速さが人手不足の文脈で意味を持つのは、月次が早く固まれば、社内に残った判断者が数字を見て動く時間が生まれるからです。従来型BPOとの違いはAI経理代行とは?に、料金の目安と前提条件は経理代行の費用相場に書きました。
外注に向く会社は、判断者がいない、または採用が決まらない会社、経理が1人体制で退職リスクを抱えている会社、月次が翌月中旬までずれ込んでいる会社です。
会社の状態別 組み合わせの判定表
3つは排他ではありません。実務では組み合わせになります。自社の状態に近い行を探してください。
| 会社の状態 | 最初の一手 | 次の一手 | 採用の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 経理担当がおらず、経営者と税理士で回している | 外注(左列を出す) | 判断ルールの文書化を委託先と進める | 事業規模が大きくなってから判断者を1人 |
| 経理が1人で、月次が翌月中旬にずれ込む | 外注(左列を出す) | 空いた時間で判断ルールを文書化 | 補充ではなく、1人体制のリスク解消が先 |
| 経理が1人で、その人が退職予定 | 業務棚卸しと判断ルールの文書化(後述) | 外注で左列を引き継ぐ | 後任採用と並行。後任は右列専任にする |
| 判断者はいるが、入力・突合に埋もれている | システム(証憑の読み取り・銀行連携) | 例外の受け皿を決める | 不要。判断者の時間を空けるほうが早い |
| 判断者がいて、証憑が紙中心 | 外注(読み取りから出す) | 取引先への電子化依頼 | 不要 |
| 経理が2人以上いて、決算期に残業が集中する | 仕訳チェック・突合の外注(全件化) | 月次の締め手順の標準化 | 繁忙対応ではなく、常時の判断者として |
表の読み方で1点。「採用」が最初の一手になっている行がないのは、採用が効かないからではなく、採用は時間がかかるので、その間に業務を止めない手を先に打つという順番の問題です。判断者を採る必要がある会社は、外注やシステムで左列を減らしながら募集を続け、入社した人を右列に置く。この順番なら、採用の遅れが業務の停止に直結しません。
1人経理の会社が、最初の90日でやること
退職の意思表示があってから動くのでは遅い。経理が1人で回っている会社は、今の担当者が在籍しているうちに次の3つを済ませておいてください。どの選択肢を選ぶにしても必要になる作業です。
1〜30日:業務の棚卸し。 月次の締めに何の作業があるかを、担当者に工程ごとに書き出してもらいます。証憑をどこから受け取り、どのソフトに入れ、誰に何を送って、何日に締めるか。会計ソフト・銀行・経費精算システムのログイン先と権限、取引先との連絡経路もここに含めます。厚い手順書は要りません。A4で数枚、工程と締め日が並んでいれば足ります。
31〜60日:判断ルールの文書化。 過去1年の仕訳から取引件数の多い取引先を上位20件抜き出し、それぞれの勘定科目と消費税の税区分を1行ずつ書く。経費規程の上限額と事前承認の条件、固定資産として計上する金額の基準も同じ文書に入れます。これが、システムにも委託先にも後任にも渡せる「自社の判断」の正本になります。担当者の頭の中にあるうちは、その人が辞めた瞬間に消える情報です。
61〜90日:左列の一部を外に出す。 棚卸しで見えた工程のうち、件数が多く判断の要らないもの——証憑の読み取りと起票、経費申請の突合——を1つ選び、システムか外注で担当者の手から外します。目的は効率化ではなく、担当者が不在でも回る工程を1つ作ること。1つ回れば、2つ目は速い。
この90日が終わった時点で、会社には「工程の一覧」「判断の正本」「人に依存しない工程が1つ」が残ります。担当者が辞めても、後任が来ても、外注に切り替えても、この3つがあれば業務は止まらない。
経理の人手不足を「経理を採ること」で解こうとする限り、市場の構造に阻まれ続けます。事務職の求職者は足りている。足りないのは判断できる人であり、その人の時間です。左列を減らして右列に人を当てる。採用・システム・外注はそのための道具で、どれを使うかは会社の状態が決めます。
なお、勘定科目の是非や消費税の取扱いといった個別の税務判断は税理士の業務です。判断に迷うときは顧問税理士にご相談ください。
よくある質問
- Q. 経理を1人採用するのと経理代行に出すのとでは、どちらが安く済みますか?
- 一概には決まりません。比べるときは、採用側は給与だけでなく採用費・教育期間・欠員が出ている間の機会損失・退職時の引き継ぎコストまで含め、外注側は業務範囲と月間の件数で料金が変わる前提で見積もりを取ってください。判断が要る仕事が社内に残る以上、外注しても判断者はゼロにできないので、「1人分の人件費と外注費のどちらが安いか」ではなく「判断者1人の時間を何に使わせるか」で比べるほうが答えが出ます。経理代行の料金の目安と前提条件は「経理代行の費用相場」の記事にまとめています。
- Q. 経理の担当者が来月退職します。今から何をすればよいですか?
- 在籍している間に3つを済ませてください。第一に、月次の締めに何の作業があるかを工程ごとに書き出し、使っている会計ソフト・銀行・経費精算システムのログイン先と権限を一覧にする。第二に、取引件数の多い取引先について勘定科目と消費税の税区分を1行ずつ書き、経費規程の上限額など判断の基準を文書にする。第三に、顧問税理士に退職の予定と現状の分担を共有し、記帳や月次の締めをどこが担うかを決める。後任の採用は並行して進めて構いませんが、入社までの期間は経理代行などで工程を止めない手を先に打つのが現実的です。
- Q. 会計ソフトや自動化ツールを入れれば、経理担当者は不要になりますか?
- なりません。ツールが減らすのは証憑の読み取り・定型仕訳の起票・突合といった判断の要らない作業で、勘定科目や税区分の方針、残高不一致の原因究明、支払の承認、規程にない経費の判断は人に残ります。自動処理が保留した例外を誰が見るかを決めずに導入すると、保留が溜まって月次が止まります。判断できる人を1人置き、その人の時間を判断に使わせるための道具として位置づけてください。税務判断は顧問税理士の領域です。