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会計事務所向け

会計事務所の人手不足対策:採用に頼らない体制のつくり方

執筆: 4649編集部

会計事務所の人手不足は、税理士や経験者が採れないことが原因ではありません。税理士でなくてもできる仕事——資料の回収、入力、記帳、月次の一次処理——を、税理士と経験者が抱えている構造が原因です。求人票を書き換えても、この構造は変わりません。変えるべきは業務の配り方のほうで、起点は採用ではなく業務の棚卸しになります。

この記事では、公的な統計と実態調査で「何が足りないのか」を確かめたうえで、税理士法の区分に沿って事務所の業務を3層に分け、層ごとに担い手を組み替える手順、1人辞めても止まらない事務所にする3つの仕組み、そのまま使える業務棚卸しのテンプレートをまとめました。企業の経理部門の人手不足については経理の人手不足を解決する3つの選択肢に書いたので、事務所側の記事として読んでください。

足りないのは税理士ではなく、経験者の「時間」

数字から確認します。日本税理士会連合会が2024年4月に実施した第7回税理士実態調査(有効回答38,607件、回答率44.8%)では、税理士の年齢層は60歳代が25.7%で最も多く、70歳代が22.0%、50歳代が21.5%、40歳代が18.1%。**60歳代以上で53.6%**です。事務所の中核を担う世代が引退期に入っていることは、業界全体の数字として確定しています。

一方で、供給側の数字は悪化していません。国税庁が公表した令和7年度(第75回)税理士試験の結果では、受験者数は36,320人で5年連続の増加。5科目到達者は527人、一部科目合格者を含めた合格者は7,847人でした。志望者は戻っている。ただし合格した人が事務所で決算を回せる戦力になるまでには年単位の時間差があり、今の人手不足を埋める数字にはなりません。

もうひとつ、採用市場の構造です。厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年6月分)では、職業別(常用、パートを除く)の事務的職業の有効求人倍率は0.36倍。求人1件に対して求職者が約3人いる計算です。これは全国・全産業を合わせた数値で、地域や雇用形態によって差はありますが、事務の仕事を希望する人は、統計上は求人を上回っています。それでも事務所の募集が決まらないのは、求人票が求めているのが「事務の頭数」ではなく、科目合格者や決算経験者だからです。

この3つの数字を重ねると、対策の方向が決まります。事務の求職者は採れる。税理士と経験者は採れない。ならば、税理士と経験者がやらなくてよい仕事を、採れる人と外部とツールに移す。人手不足の解決とは、事務所の中で「経験者の時間が何に使われているか」を組み替えることです。

業務を「税理士法の3層」に分ける

組み替えの前に、業務を分類します。一般企業の経理なら「判断が要る仕事・要らない仕事」の2分類で足りますが、会計事務所には「誰がやってよいか」を法律が決めている領域があるので、3層にします。

税理士法第2条は、税理士業務を税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つと定め(第1項)、それとは別に、税理士業務に付随して財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を行えると定めています(第2項)。第1項が独占業務、第2項は付随業務で独占ではありません。国税庁の税理士法基本通達 第2条関係も、この2つを区別して解説しています。

内容根拠担える人
第1層 税理士業務申告書・申請書の作成、税務代理、税務相談への回答、税務判断税理士法第2条第1項(独占)税理士。補助者は税理士の指揮下での補助まで
第2層 会計業務記帳、月次の締め、残高照合、試算表・決算書の作成、経営数値の説明税理士法第2条第2項(付随業務、非独占)事務所の職員、外部の委託先
第3層 事務作業資料の回収・督促、スキャン・データ化、会計ソフトへの入力、面談日程の調整、書類の送付法律上の制限なし事務所の職員(パート・在宅含む)、外部、ツール

事務所の人手不足の正体は、この表で見ると1行で言えます。第1層しかできない人が、第2層と第3層を抱えている。 税理士が資料を督促し、決算経験者が通帳を入力している事務所は珍しくありません。第1層は減らせないし、外にも出せない。だから経験者の時間を空けるには、第2層と第3層を動かすしかない。

なお、第2層を外に出せることと、事務所の責任がなくなることは別です。税理士には秘密を守る義務(第38条)があり、職員に対しては使用人等の監督義務(第41条の2)があります。顧問先の帳簿と証憑を扱う委託先に対しても、秘密保持契約、データの保管場所、再委託の有無、AIの学習利用の可否を事務所側が把握し、契約に落としてから渡す。ここは委託先が誰であっても事務所の仕事です。

層ごとの打ち手:第3層、第2層、第1層の順に動かす

動かす順番は下から。第3層は最も動かしやすく、第2層は最も時間を空ける効果が大きく、第1層は最後に「集中させる」だけになります。

第3層:資料の来方を変え、採れる人で受ける

第3層で時間を食っているのは、資料が来ないことと、来た資料の形が揃っていないことです。紙の領収書が封筒で届き、通帳のコピーが月末に来て、請求書はメールと郵送が混在する。この状態では、誰がやっても回収と整形に時間がかかります。

先に顧問先側を変えます。証憑の渡し方を「月初◯日までに、スマートフォンで撮影して所定のフォルダかチャットへ」と決め、契約更新のタイミングで顧問先ごとに合意していく。全顧問先を一度に変える必要はなく、資料が遅い上位10社から始めれば、督促の時間はその10社分だけ減ります。

残った回収・データ化・入力は、0.36倍の層で採れる人で受けます。求人票から「税理士事務所での実務経験」を外し、パートや在宅の事務職として「資料の整理と入力」に絞って募集する。要件を変えれば、応募の景色が変わります。

第2層:記帳と月次の一次処理を、外に出す

経験者の時間を最も空けるのは第2層です。顧問先20社の記帳と月次を1人が抱えていれば、その人の月の大半は入力と照合で終わる。ここを外に出すと、経験者は「上がってきた試算表を確認し、顧問先に説明する」側に回れます。

第2層は税理士法第2条第2項の付随業務なので、事務所外の委託先に一次処理を出すこと自体に法的な障害はありません(申告書の作成や税務相談は出せません)。障害になるのは品質への不安のほうで、これは委託先の選び方で潰します。見るべきは3点。判断の根拠が納品物に残るか、チェックが全件かサンプルか、顧問先ごとの科目・税区分のルールを処理基準に反映してくれるか。この3点を数字で答えられない委託先は、繁忙期に品質が崩れます。工程のどこをAIが担い、どこを人が担うかで見分ける方法はAI経理代行とは?にまとめました。

当社の会計事務所向け 4649経理代行は、この第2層を事務所のバックヤードとして引き受ける形です。記帳・月次決算・仕訳チェック・経費チェック・固定資産・納品突合の6メニューから1つでも組み合わせでも使え、顧問先との窓口は事務所のまま。料金は顧問先から受け取る報酬の一定割合を当社の料金として確定する粗利保証型で、お預かりしたデータをAIの学習に使うことはありません。4649記帳代行では、従来2週間かかっていた記帳作業が1日に短縮された事例があります(※実際のご利用者様の事例です。納期は業務内容やボリュームにより異なります)。記帳が1日で戻れば、経験者が顧問先と数字の話をする時間が月の前半に生まれます。

外に出したあとも、試算表の確認、顧問先固有の事情を踏まえた調整、顧問先への説明は事務所に残ります。これらは減らす対象ではなく、経験者の時間を当てる対象です。

第1層:税理士と科目合格者の時間を、ここに寄せる

第3層と第2層が動けば、第1層は「集中させる」だけです。税理士は申告・税務相談・顧問先面談に、科目合格者は税務書類の作成補助に。第1層の仕事は減らせませんが、記帳の根拠が残った状態で試算表が上がってくれば、決算前に「この仕訳は何か」を遡る時間が消えます。第2層の品質は、第1層の生産性に直接効きます。

1人辞めても止まらない事務所にする3つの仕組み

層を分けて担い手を移しても、「1人辞めたら回らない」構造が残っていれば、次の退職でまた同じ場所に戻ります。以下の3つは、業務を外に出すかどうかに関係なく作っておく仕組みです。

1. 顧問先ごとに主担当と副担当を置く。 1顧問先1担当の体制では、担当者の退職がそのまま顧問先の引継ぎ問題になります。副担当は月次の内容を毎月確認する程度でよく、全業務を並行して持つ必要はありません。月次の内容を毎月見ている副担当が「この顧問先の資料の来方と科目の癖」を把握していれば、引継ぎに要する期間と、引継ぎ中に顧問先へかける負担を大きく減らせます。

2. 顧問先ごとの判断メモを1枚作る。 取引件数の多い取引先と、その勘定科目・消費税の税区分。資料の来方と締め日。過去に顧問先と揉めた論点。この3つをA4で1枚に書き、担当者の頭の外に出す。厚い手順書は要りません。このメモは、外部の委託先に渡す処理基準、未経験者の教材、副担当の引継書を兼ねます。

3. 誰が・いつ・何をやっているかを事務所横断で見る。 担当者ごとの抱えている顧問先数と工数が見えていないと、負荷の偏りは退職の意思表示で初めて発覚します。顧問先×担当者の月次の進捗と工数を一覧で持ち、繁忙期の前に偏りを均す。Excelでも運用できますが、勤怠工数と顧問先ごとの採算まで一体で見るなら、顧客・プロジェクト・工数・損益をひとつの画面で扱う事務所管理ソフトウェアを使う選択肢もあります。当社もこの領域で事務所管理AIを開発していますが、現時点では未提供で、公開・ベータ募集に向けた事前登録を受け付けている段階です。

採用をやめるのではなく、採用の要件を変える

「採用に頼らない」は、採用をやめる話ではありません。変えるのは要件と順番です。経験者の募集は続けて構いませんが、決まるまでの間に業務を止めない手を先に打つ。第2層と第3層を動かして経験者の時間を空け、入社した人は第1層と、第2層の確認・説明側に置く。この順番なら、採用の遅れが顧問先への納期遅れに直結しません。

同時に、第3層の要件で未経験者を採り、第2層へ育てる経路を作ります。教材は前のセクションの判断メモです。「先輩の横で覚える」しかなかった教育が、メモを読んで一次処理を確認する形に変わる。税理士試験の受験者が5年連続で増えている事実は、数年後にこの経路を通る人が増えることを意味します。

12月から3月の繁忙期に崩れるのも第2層と第3層です。年末調整・確定申告・3月決算の準備が第1層に集中する時期に、記帳と入力が同じ人に載る。第2層・第3層を平時に外へ出しておくことは、繁忙期対策そのものでもあります。

業務棚卸しテンプレート:コピーして使う

以下は、事務所の業務を3層に振り分け、どこへ移すかを決めるための表です。表計算ソフトに貼り付けて使ってください。

業務今の担い手月間の時間(概算)移せる先移す時期
顧問先からの資料回収・督促3顧問先側の運用変更 / パート・在宅 / ツール
証憑のスキャン・データ化3パート・在宅 / 外部 / ツール
会計ソフトへの入力3外部 / ツール
記帳(仕訳の起票)2外部
残高照合・月次の締め2外部
試算表の確認・顧問先への説明2事務所に残す(経験者)
決算書の作成2事務所に残す(経験者)
申告書の作成1事務所に残す(税理士・補助者)
税務相談・税務判断1事務所に残す(税理士)
顧問先との面談1〜2事務所に残す(税理士・経験者)

使い方は5段階です。

  1. 「今の担い手」に名前を入れる。税理士や経験者の名前が第3層に並んだら、それが人手不足の原因です
  2. 「月間の時間」を担当者本人に概算で書いてもらう。厳密でなくてよく、上位3つが分かれば足ります
  3. 第3層のうち時間の大きいものから「移せる先」を1つ選び、「移す時期」を入れる
  4. 第2層のうち、外に出す業務を顧問先単位で決める。いきなり全顧問先ではなく、資料が電子で揃っている顧問先から数社
  5. 移したあとに空いた時間を、第1層と第2層の確認・説明にどう使うかを決める。ここを決めないと、空いた時間が別の作業で埋まります

この表を埋めると、事務所ごとに違う答えが出ます。第3層が重い事務所は顧問先の資料運用から、第2層が重い事務所は外注から、第1層に人が足りない事務所だけが採用から。同じ「人手不足」でも、打ち手の順番は表が決めてくれます。


60歳代以上が過半数を占める業界で、経験者の争奪は今後も続きます。一方で、事務の求職者は足りていて、税理士試験の受験者は増えている。足りないのは経験者の時間であり、その時間は第2層・第3層を動かせば作れます。

なお、本記事は事務所運営の一般論であり、個別の税務判断や顧問先との契約内容に関する判断は、税理士および所属の税理士会・専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 顧問先の記帳を事務所の外に出すのは、税理士法上問題ありませんか?
会計帳簿の記帳の代行や財務書類の作成は、税理士法第2条第2項で税理士業務に「付随して」行える会計業務と位置づけられており、第1項の税理士業務(税務代理・税務書類の作成・税務相談)のような独占業務ではありません。したがって記帳の一次処理を事務所外の委託先に出すこと自体は、税理士法が禁じる行為ではありません。一方で、申告書の作成や税務相談を税理士でない者に行わせることはできず、顧問先の情報を扱う以上、秘密保持と委託先の管理は事務所の責任として残ります。委託の範囲や契約の組み方で判断に迷う点は、所属の税理士会にご確認ください。
Q. 経験者が採れません。未経験者を採って育てる余裕もないのですが、どうすればよいですか?
順番を入れ替えてください。育てる余裕がないのは、教える側の経験者が入力・記帳・照合といった第2層・第3層の作業に埋まっているからです。先にその作業を外部やツールに移して経験者の時間を空け、そのうえで未経験者を第3層から採って第2層へ育てる。育成の教材は、顧問先ごとの科目・税区分の癖や資料の来方を書いた判断メモで、これは外部に出す準備として作る文書と同じものです。経験者を待つより、経験者の時間を作るほうが早く終わります。
Q. 記帳や月次を外に出すと、顧問先との関係が薄くなりませんか?
逆です。薄くなるのは、担当者が入力に追われて顧問先に電話する時間がなくなったときです。外に出すのは資料をデータにする工程と一次処理であって、顧問先への説明や相談対応は事務所に残ります。当社の会計事務所向けプランでも、顧問先との窓口は事務所のままで、当社はバックヤードとして実務を担う形です。事務所が顧問先と向き合う時間を増やすために作業を外に出す、という順番で考えてください。