会計事務所が記帳業務を外注するという選択肢:品質と採算の考え方
執筆: 4649編集部
会計事務所が顧問先の記帳を外部に出すことに、税理士法上の障害はありません。会計帳簿の記帳の代行は税理士業務に「付随して」行える業務であって、独占業務ではないからです。判断すべきは可否ではなく、品質をどう担保するかと、顧問先ごとに採算が合うかの2点。この記事は、この2点を数字と手順で確かめる方法をまとめました。
前提として、外注か内製かは事務所単位の二者択一ではなく、顧問先単位で分ける話です。事務所の人手不足が「税理士でなくてもできる仕事を税理士と経験者が抱えている構造」から生まれることは会計事務所の人手不足対策に書きました。本記事はその続きで、記帳と月次の一次処理を実際に外へ出すと決めたときの、品質と採算の設計に絞ります。
会計事務所が記帳を外注できる根拠と、外に出せない業務
税理士法第2条は、税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つを税理士業務と定め(第1項)、それとは別に、税理士業務に付随して財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行えると定めています(第2項)。第1項は税理士の独占業務、第2項は付随業務で独占ではありません。国税庁の税理士法基本通達 第2条関係も、この2つを分けて解説しています。
つまり、顧問先の証憑から仕訳を起こして会計ソフトに入力する一次処理は、事務所の外の委託先が担っても税理士法に触れません。外に出せないのは第1項の側です。申告書の作成、税務相談への回答、そして税務上の判断。委託先が仕訳に科目と消費税の税区分を付けて起票することは記帳作業の一部ですが、その処理が税務上妥当かの最終判断と、顧問先からの税務相談への回答は事務所(税理士)に残ります。委託先に「この取引の税務上の扱いを決めてほしい」と頼む形にはできません。
もうひとつ、責任は外に出ないという点です。税理士には秘密を守る義務(第38条)と、使用人等に対する監督義務(第41条の2)が課されます。第41条の2の対象は税理士業務について指揮命令や監督が及ぶ者で、独立した外部の委託先が当然にその対象になるわけではありません。委託先に管理を及ぼす根拠は、後述する個人情報保護法第25条の委託先監督義務と、事務所側に残る第38条の秘密保持です。いずれにせよ顧問先の帳簿と証憑を渡す以上、委託先を職員と同等の管理下に置く必要があり、その手段は契約です(後述の5項目)。委託の範囲や契約の組み方で判断に迷う点は、所属の税理士会や弁護士にご確認ください。
採算は「顧問先1社あたり」で計算する
外注が得か損かを事務所全体で論じても答えは出ません。顧問料も仕訳数も資料の質も、顧問先ごとに違うからです。式は2本です。
内製コスト = 記帳・一次処理の時間 × 担当者の時間コスト + 確認時間 × 経験者の時間コスト
外注コスト = 委託料 + 事務所側の確認時間 × 経験者の時間コスト
時間コストは「(年間人件費(法定福利費込み)+ 採用・教育費の按分)÷ 年間実働時間」で出します。給与だけで計算すると、内製が実際より安く見えます。
数字を入れてみます。以下はすべて仮の数値で、事務所ごとに置き換えてください。
- 顧問先A:月額顧問料3万円(記帳込み)、月120仕訳
- 職員が記帳と月次の一次処理に月6時間、経験者の確認に月1時間
- 時間コスト:職員2,700円、経験者4,500円
- 外注時の確認時間:根拠コメント付きの納品を前提に月0.5時間
| 月間コスト | 顧問料から残る額 | |
|---|---|---|
| 内製 | 6h×2,700円 + 1h×4,500円 = 20,700円 | 9,300円(31%) |
| 外注(1仕訳100円) | 12,000円 + 0.5h×4,500円 = 14,250円 | 15,750円(53%) |
| 外注(1仕訳200円) | 24,000円 + 0.5h×4,500円 = 26,250円 | 3,750円(13%) |
同じ顧問先で、委託単価が100円か200円かで結論が逆転します。だから問いは「外注は得か」ではなく、この顧問先はいくらまでなら外注できるかです。それが損益分岐単価で、式は「(内製コスト − 外注時の確認コスト)÷ 月間仕訳数」。顧問先Aなら(20,700 − 2,250)÷ 120 ≒ 154円。見積もりがこれを下回れば外注のほうが残り、上回れば内製のほうが残る。単価の水準は、当社が集計した公開料金表8社では標準的な仕訳を前提に1仕訳50〜200円程度でした(経理代行の費用相場。事務所向けに受託する事業者は別の料金体系を取ることもあるので、必ず見積もりで確認してください)。
この計算で見落としやすい点が3つあります。
確認時間は納品物の形で決まる。 判断が要った仕訳に根拠が添えられていれば、確認は「根拠を読んで納得するか」の作業で済みます。根拠がなければ、結局は証憑と突き合わせて全件を見直すことになり、確認時間が内製時と変わらない。上の例で外注時の確認を0.5時間と置けたのは、根拠付きの納品が前提です。この前提が崩れると、外注コストは委託料に内製コストの大半を足した数字になります。
空いた時間の使い道を先に決める。 顧問先Aで職員の6時間が空いても、その時間が別の入力作業で埋まれば採算は改善しません。空いた時間を顧問先との面談、決算の前倒し、新規顧問先の対応のどれに当てるかを決めて初めて、上の表の「残る額」に意味が出ます。
固定費と変動費の違いを見る。 内製の人件費は繁閑にかかわらず固定です。12月から3月に残業で処理し、閑散期に手が空いていても同じ額が出ていく。外注は仕訳数に応じた変動費なので、繁忙期の残業と閑散期の遊休が採算計算の外に出ます。この差は月次の表には現れず、年間で見たときに効きます。
料金体系そのものを変える方法もあります。委託料を「顧問先から受け取る報酬の一定割合」で確定させる体系なら、上の計算は「顧問料×割合」で済み、顧問先ごとの粗利率が最初から固定されます。当社の会計事務所向け 4649経理代行はこの粗利保証型で、割合と条件は業務内容により個別にご提案しています。
品質は「判断ルールの固定」と「納品物に残る根拠」で決まる
記帳の外注でよくある失敗は、委託先の腕の問題ではなく、事務所側の準備の問題です。顧問先ごとの癖が委託先に伝わらないまま資料だけが渡り、科目と税区分が揺れ、事務所の確認で全部を直す。3ヶ月で「やはり内製のほうが早い」となる典型です。品質を決めるのは次の3点で、うち2つは事務所側にあります。
1. 顧問先別の処理メモを渡す。 取引件数の多い取引先と、その勘定科目・消費税の税区分。資料の来方と締め日。過去に顧問先と揉めた論点。この3つをA4で1枚にまとめ、処理基準として委託先に渡します。厚い手順書は要りません。このメモは人手不足対策の記事で書いた「判断メモ」と同じもので、未経験者の教材と副担当の引継書を兼ねます。メモがない状態で外注すると、委託先は一般的な処理で起票するしかなく、顧問先固有の扱いは必ずずれます。
2. 納品物に根拠が残る形を要求する。 判断が必要だった仕訳に「なぜこの科目か」のコメントが付き、証憑と仕訳が紐づいている状態を納品の条件にします。前のセクションの確認時間の話はここに直結します。根拠が残っていれば、決算前に「この仕訳は何か」を遡る時間も消えます。
3. チェックが全件かサンプルかを数字で聞く。 人手だけで処理する委託先では、全件のダブルチェックは工数的に難しく、サンプル抽出が現実解になります。抽出率が何%かを聞いて、答えが具体的に返ってくるかを見てください。AIを軸に処理する委託先では担当者差が消える代わりに、判断ルールの設計とAIの出力を誰がどこまで確認しているかが品質を決めます。工程のどこをAIが担い、どこを人が担うかを見分ける8つの質問はAI経理代行とは?にまとめました。
事務所に残す確認は、試算表レベルのレビューと税務判断と顧問先への説明です。残高の異常値、前月比の大きな増減、根拠コメントが付いた仕訳の妥当性。全仕訳をもう一度チェックする運用にはしないでください。それをやるなら外注する意味がなく、逆に言えば、全仕訳を見直さないと不安な委託先は選ばないほうがよい、ということです。
外注に向く顧問先、まだ向かない顧問先
全顧問先を一度に移す必要はありません。採算と品質の両方が出やすい顧問先から始めます。
| 向く顧問先 | まだ向かない顧問先 | |
|---|---|---|
| 資料の来方 | 銀行・カード明細がデータで取れ、請求書はPDFで届く | 紙の領収書が封筒で月末にまとめて届く |
| 取引の型 | 毎月同じ取引先との定型取引が中心 | 現金商売で証憑が不揃い、複数事業や部門別の管理がある |
| 仕訳数 | 多い(担当者の入力時間が長い) | 少ない(外注しても空く時間が小さい) |
| 判断の頻度 | 例外的な取引が月に数件 | 判断の分かれる取引が毎月多数 |
右列の顧問先は、外注の前に資料の来方を変えるのが先です。証憑の渡し方を「月初◯日までに、スマートフォンで撮影して所定のフォルダかチャットへ」と決めるだけで、左列に移る顧問先は少なくありません。順番としては、月間仕訳数が多く、資料が電子で揃っている顧問先を2〜3社、候補として洗い出すところからです。この条件に合う顧問先は、内製で職員の時間を最も食っている顧問先でもあります。
委託先と契約前に決めておく5項目
個人情報保護法第25条は、個人データの取扱いを委託した事業者に対し、委託先への必要かつ適切な監督を義務づけています。監督するには、以下を把握して契約に落としておく必要があります。
- 秘密保持と再委託。 秘密保持契約を結び、再委託の有無と範囲を書面で確認する。再委託先が海外の場合は保管場所の扱いも変わります
- データの保管場所・保存期間・返却と削除。 帳簿書類の保存義務者は顧問先のままです。委託先が処理後の証憑データをどこに、いつまで保管し、契約終了時にどう返却・削除するかを決める
- AIの学習への利用可否。 お預かりしたデータを委託先がAIの学習に使うかどうかは、口頭ではなく契約書または覚書で確認する
- 納期の起算日と質問の回答ルール。 起算日が資料の受領日か、資料が揃った日か。委託先からの質問に答えるのは事務所か顧問先か、何営業日以内か。ここが曖昧だと、納期の遅れが「誰のせいか」で毎月止まります
- 出口。 解約時のデータの引き渡し形式(会計ソフトのインポート形式か、CSVか)と引き継ぎ期間
料金・セキュリティ・出口条件を含む委託先の比較表テンプレートは経理代行会社の選び方に載せています。企業向けに書いたものですが、観点は事務所が委託先を見るときも同じです。
導入手順:1社から始めて3ヶ月で判断する
- 次のセクションの採算シートを顧問先ごとに埋め、損益分岐単価が高く、資料が電子で揃う顧問先を2〜3社、候補として洗い出す
- 候補の顧問先の処理メモをA4で1枚作る
- そのうち1〜2社で3ヶ月試す。測るのは3つ。事務所側の確認時間(月)、修正・差し戻しの件数、納期(資料が揃った日から納品まで)
- 3ヶ月後、シートの「確認時間」を仮の値から実測値に置き換えて、採算を計算し直す
- 採算と品質が出た顧問先の型(資料の来方・取引の型)を基準に、次の顧問先を選ぶ
上の3ヶ月は貴所側が品質と採算を見極めるための期間の目安で、委託先との契約期間の話ではありません。当社の会計事務所向け 4649経理代行も、この進め方に合う形で設計しています。顧問先との窓口は事務所のままで、当社はバックヤードとして記帳・月次決算・仕訳チェック・経費チェック・固定資産・納品突合の6メニューを担い、1社から試せます。判断が必要だった仕訳には根拠コメントを添えて納品するので、上の手順で測る「確認時間」は根拠を読む時間になります。お預かりしたデータをAIの学習に使うことはありません。4649記帳代行では、従来2週間かかっていた記帳作業が1日に短縮された事例があります(※実際のご利用者様の事例です。納期は業務内容やボリュームにより異なります)。記帳が月の前半に戻ってくれば、経験者が顧問先と数字の話をする時間は同じ月のうちに生まれます。
テンプレート:顧問先別 記帳採算・外注適性シート
表計算ソフトに貼り付けて使ってください。1行目は前のセクションの顧問先Aを仮の数値で埋めたものです。
| 顧問先 | 月額顧問料 | 月間仕訳数 | 記帳・一次処理の時間 | 経験者の確認時間 | 内製コスト | 損益分岐単価 | 資料の電子化 | 取引の定型度 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A社(例) | 30,000円 | 120 | 6h(職員) | 1h | 20,700円 | 154円 | 高 | 高 | 候補 |
使い方は4段階です。
- 「記帳・一次処理の時間」と「確認時間」は担当者本人に概算で書いてもらう。厳密でなくてよく、月の時間の上位10社が分かれば足ります
- 「内製コスト」は時間×時間コストで、「損益分岐単価」は(内製コスト − 外注時の確認コスト)÷ 仕訳数で出す。外注時の確認コストは、根拠付き納品なら内製時の確認時間の半分程度を仮置きし、試行後に実測値へ置き換える
- 「資料の電子化」「取引の定型度」を高・中・低で付ける。損益分岐単価が高く、両方が「高」の顧問先が最初の候補
- 「判定」は候補 / 資料の来方を先に変える / 内製のまま、の3択。「資料の来方を先に変える」に入った顧問先は、次の契約更新で証憑の渡し方を合意する
この表を埋めると、外注すべき顧問先と、外注の前にやることがある顧問先が分かれます。どちらも、職員の時間がどこに使われているかを数字にした結果です。
記帳を外に出すことは、事務所の仕事を減らすことではありません。税理士と経験者の時間を、申告・税務相談・顧問先との対話という事務所にしかできない仕事に戻すことです。委託先は事務所の代わりではなく、事務所の後ろで一次処理を担う分担相手として使ってください。
なお、本記事は事務所運営の一般論であり、税理士法や個人情報保護法の個別の解釈、顧問先との契約条項の判断は、所属の税理士会や弁護士にご確認ください。
よくある質問
- Q. 顧問先に、記帳を外部に委託していることを伝える必要はありますか?
- 顧問契約書の委託・第三者提供に関する条項と、事務所の秘密保持の運用で決まります。個人情報保護法では、利用目的の達成に必要な範囲で個人データの取扱いを委託することに伴う提供は第三者提供に当たらないとされる一方(第27条第5項第1号)、委託先を監督する義務(第25条)があります。税理士には税理士法第38条の秘密保持義務もあるため、委託先との秘密保持契約は前提です。当社の会計事務所向けプランでは、顧問先に当社の存在を出すか出さないかを事務所と相談して決めています。契約条項の解釈や個別の対応は、弁護士または所属の税理士会にご確認ください。
- Q. 外注すると記帳の品質は落ちませんか?
- 落ちるかどうかは、委託先の看板ではなく、渡す情報と納品物の形で決まります。顧問先ごとの科目・税区分の癖を処理メモとして渡さなければ、どんな委託先でも仕訳は揺れます。逆に、判断が必要だった仕訳に根拠コメントが付き、証憑と仕訳が紐づいた状態で納品されれば、事務所側の確認は「根拠を読む」作業になり、内製時より品質を確かめやすくなります。契約前に、チェックが全件かサンプルか、根拠がどの形で残るかを数字と実物で確認してください。
- Q. 損益分岐単価が市場の単価を下回る顧問先は、どうすればよいですか?
- 外注の前に、資料の来方と仕訳数を変えるのが先です。証憑を紙でまとめて受け取っている顧問先は、銀行・カード明細のデータ連携と請求書のPDF化に切り替えるだけで、内製・外注どちらのコストも下がります。現金取引をカードや振込に寄せれば仕訳数そのものが減ります。それでも採算が合わない場合、その顧問先の顧問料に対して記帳の工数が重すぎるということなので、契約更新時に業務範囲と報酬の構成を見直す材料になります。外注は採算を作る手段の1つで、唯一の手段ではありません。