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会計事務所の製販分離とは?メリット・注意点と進め方

執筆: 4649編集部

会計事務所の製販分離とは、資料の回収・整理、記帳、決算書や申告書の作成といった「製」と、新しいお客様の獲得や顧問先との面談・相談・提案といった「販」を、別の担当に分ける体制のことです。顧問先1社に担当者1人がつき、資料の回収から申告、面談までを受け持つ「製販一体」に対する言葉です。

分けると、仕事が人につかなくなり、販を担う人が顧問先と向き合う時間を確保できます。一方で、記帳で気づいたことが面談に届かないなど、情報が途切れやすくなります。この記事では、製と販の線引きを税理士法の区分に沿って整理し、メリットと注意点、分けたあとの情報のつなぎ方、進め方をまとめました。

製販分離とは:作る仕事と届ける仕事を分ける体制

製販分離は、もともと製造業の言葉です。製品を作る部門と売る部門を分け、作る側は生産に、売る側は顧客と市場に集中する。これを会計事務所に当てはめると、次のように分かれます。

製(作る仕事)販(届ける仕事)
主な業務資料の回収・整理、記帳、残高照合、決算書・申告書の作成新しいお客様の獲得、顧問先との定期面談、相談への対応、提案
仕事の成果帳簿、試算表、決算書、申告書顧問契約、面談の記録、提案
期限月次の締め(顧問先との約束)、決算・申告の法定期限がある決まった期限がないものが多い

押さえておきたいのは、販が新規の営業だけを指すのではないことです。いまの顧問先と定期的に会い、数字の変化を説明し、相談に乗り、次の手を提案する。こうした仕事も販に入ります。製販分離は、新しいお客様を獲得する力と、いまのお客様に価値を届け続ける力の両方を強めるための分け方です。飲食店でいえば、席が増えた店が厨房とホールを分け、料理人は料理に、ホールのスタッフはお客様に集中するのに近い形です。

製販一体の良さと、顧問先を増やすときの限界

多くの会計事務所は、所長が営業を担い、職員がそれぞれ担当の顧問先を持つ製販一体で回ってきました。顧問先1社に担当者1人。資料の回収から記帳、決算、申告、面談までを同じ人が受け持ちます。

この形には確かな良さがあります。顧問先から見れば、いつも同じ担当者が自社の事情を分かってくれている。担当者は記帳をしながら「売上が前年同月より落ちている」「新しい借入が入った」と気づき、その話を次の面談でそのまま切り出せます。記帳で気づいたことと顧問先との対話が、一人の中でつながっている。これが製販一体の強みです。

一方で、顧問先を増やそうとすると、いくつかの壁に当たります。

  • 受け持てる顧問先の数に上限がある。 顧問先を増やすには担当者を増やすしかなく、経験者は採りにくい(事情は会計事務所の人手不足対策で統計とともに整理しました)。
  • 仕事が人につく。 処理の癖や顧問先の事情が担当者の頭の中にあり、担当者が辞めると事情ごと引き継ぐことになります。
  • 面談や提案が後回しになる。 申告には法定の期限があり、記帳にも月次の締めや試算表を届ける日といった顧問先との約束があります。定期面談や提案には、そうした期限がありません。製に追われるほど、期限のない販の仕事から削られます。
  • 新しいお客様の獲得が、所長と問い合わせ頼みになる。 問い合わせが続くうちは回りますが、止まったときに補う手立てがありません。

製販一体が劣っているわけではなく、顧問先の数を大きく増やさない事務所なら、強みのほうが生きる場面も多くあります。製販分離が意味を持つのは、事務所を大きくしたいとき、あるいは顧問先との関係を深める時間を組織として確保したいときです。

いま製販分離が求められる背景:販を強める必要と、製を切り離せる環境

当社がお付き合いしている会計事務所の方から、こんな話を聞きました。これまでは、顧問先からの問い合わせで新しい仕事が生まれていた。けれども、それが止まると、新規の獲得はとたんに機能しなくなる。だから、マーケティングや攻めの営業に取り組み、販売を組織にして強くしている。さらに、顧問先の解約もぽつぽつと出てきたので、それを食い止めるために、定期的な面談やコンサルテーションに力を入れている——という話です。

新規の獲得も、いまの顧問先との関係の維持も、所長一人や担当者個人の頑張りには任せきれなくなっています。記帳を正確に仕上げるだけでなく、その先の面談や提案で価値を届けることが求められている。ところが製販一体のままでは、職員は期限のある製に追われ、販に手が回りません。販を担う人を置き、組織にするための体制が製販分離です。

同時に、製を担当者から切り離しやすい環境も整ってきました。会計ソフトが特定のパソコンに入っていた頃は帳簿を開ける人と場所が限られましたが、クラウド会計とクラウドストレージなら、資料と帳簿を場所を問わず扱えます。資料の読み取り、仕訳の起案、検算といった製の作業の多くは、AIを組み込んだ仕組みでも担えるようになりました。製を仕組みで担えるほど、人を販に寄せられます。

製と販の線引きは、税理士法の区分とあわせて決める

製を誰に任せるかを決める前に、税理士法の区分を確認します。製の中には、税理士でなくても担える業務と、税理士でなければできない業務が混ざっているからです。

税理士法第2条は、税務代理・税務書類の作成・税務相談を税理士業務と定め(第1項)、これとは別に、税理士業務に付随して財務書類の作成や会計帳簿の記帳の代行などを行えると定めています(第2項)。第1項の税理士業務は、第52条により、税理士または税理士法人でない者は原則として行えません。国税庁の税理士制度のQ&A(問6-1)も、税理士でない者に禁止されている業務としてこの3つを挙げています。一方で、第2項の記帳や財務書類の作成は独占業務ではありません。

業務製/販税理士法上の位置づけ担える人の例
資料の回収・督促、スキャン、整理製法律上の制限なし職員(パート・在宅を含む)、外部、ツール
記帳(仕訳の起票)、残高照合製第2条第2項(付随業務・非独占)職員、外部の委託先
決算書の作成製第2条第2項(付随業務・非独占)職員、外部の委託先
申告書の作成製第2条第1項(税理士業務・独占)税理士。職員は税理士の指揮・監督のもとでの補助まで
税務相談への回答販第2条第1項(税理士業務・独占)税理士
定期面談、試算表の説明、経営の相談・提案販内容による(税務相談に当たる部分は税理士)税理士、経験のある職員
新しいお客様の獲得販法律上の制限なし所長、販の担当者

この表から分かるのは、製の大半は所内の職員にも外部にも任せられる一方で、申告書の作成は製の中でも税理士の手元に残るということです。製を分けるといっても、申告書まで含めて丸ごと切り出せるわけではありません。税理士でない委託先に出せるのは、資料の整理から記帳、決算書の作成までの範囲です。

任せ方によって、事務所に残る責任も変わります。税理士には秘密を守る義務(第38条)があり、職員に対しては使用人等に対する監督義務(第41条の2)があります。外部に任せる場合も、秘密保持契約、データの保管場所、再委託の有無を事務所側で確かめ、契約に落としてから資料を渡します。

製販分離のメリット:仕事が人から離れ、販の時間を組織で持てる

仕事が人につかなくなる。 製の手順を顧問先ごとのメモにまとめ、工程ごとに担当を置くと、特定の担当者がいないと進まない顧問先が減ります。担当者が辞めたときの引き継ぎも、顧問先の事情を一から聞き直す作業ではなく、メモと帳簿を渡す作業になります。

品質が揃う。 通帳の入力、証憑の紐付け、残高照合と工程を分けると、同じ工程を繰り返す人がその工程に慣れていきます。担当者ごとのやり方の違いが減り、確認する側も同じ観点で見られるようになります。

販の時間を、組織として確保できる。 いちばん大きいのはここです。販を担う人は、期限のある製に削られずに、月に一度、四半期に一度といった顧問先との面談の予定を先に押さえられます。新しいお客様の獲得も、所長一人の時間ではなく、事務所の仕事として計画できます。

得意な仕事に人を寄せられる。 記帳や決算を正確に仕上げるのが得意な人と、顧問先の話を聞いて提案するのが得意な人は、同じとは限りません。製販一体では両方を一通り受け持ちますが、分ければ、それぞれの得意な側に寄せられます。

製販分離の注意点:途切れる情報と、移行期の負担

顧問先の情報が途切れやすくなる

製販一体の強みは、記帳で気づいたことと顧問先との対話が、一人の中でつながっていることでした。分けると、記帳で気づいた売上の落ち込みが面談の話題に上らない、面談で聞いた設備投資の予定が記帳の担当に伝わらず科目の判断が揺れる、といったことが起きます。注意点の中でもっとも重いのがこれで、次の節の「つなぎ方」を先に決めておく理由でもあります。

移行の途中がいちばん負担が大きい

分けるには、担当者の頭の中にあった処理の癖や顧問先の事情を書き出し、手順を揃える必要があります。通常の業務と並行して進めるため、移行の途中は製販一体のときより手間が増えますし、慣れたやり方を手放すことでもあります。始める時期は、年末調整・法定調書・確定申告の期限が重なる12月〜3月を避けます。3月決算の顧問先が多い事務所は、その法人税の申告(原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内、つまり5月末まで)が終わる6月以降のほうが無理がありません。月ごとの期限は会計事務所の繁忙期対策の期限表にまとめています。

働きの見え方が変わる

担当している顧問先の数で働きを見てきた事務所では、分けたあとの一人ひとりの働きが見えにくくなります。製は処理件数や締めまでの日数、販は面談の実施状況や顧問先の継続、というように仕事に合った物差しを用意します。

顧問先の協力が要る

資料の出し方や受け渡しの方法を揃えてもらうなど、顧問先にもお願いが生じます。面談の担当と資料の担当を最初に紹介しておくと、窓口が変わった戸惑いを減らせます。

分けたあとのつなぎ方:製と販の間で渡す情報を決めておく

製販分離の注意点の多くは、分けたあとに製と販をどうつなぐかに行き着きます。製販一体の強みを失わずに分けられるかどうかは、情報を渡す仕組みを先に決めておけるかどうかで決まります。渡す情報は、方向ごとに決めておきます。

方向渡す情報の例渡すタイミングの例
製 → 販売上・粗利の大きな変化(前年同月比など)、新しい借入や返済の開始、役員との貸し借りの増加、用途の分からない入出金、資料の遅れが続いていること月次の記帳が終わったとき(確認事項と一緒に一覧で)
製 → 販決算に影響しそうな取引(高額な固定資産の購入、新しい取引先や新しい事業の兆し)気づいた時点ですぐ
販 → 製面談で聞いた予定(設備投資、借入、役員報酬の変更、店舗の開設・閉鎖、人を増やす予定)面談の当日中
販 → 製顧問先と合意した処理の方針(科目の使い方、資料の締め日、試算表を届ける日)合意した時点で、顧問先ごとのメモに追記

製から販へは「数字の変化」と「確認が必要な点」を、販から製へは「これからの予定」と「顧問先と決めたこと」を渡す。こう整理しておくと、何を伝えればよいか迷いません。渡し方は、月次ごとに顧問先1社1枚の一覧にまとめる形が続けやすく、チャットに流すだけでは後から追えなくなります。処理の癖や資料の来方を書いた顧問先ごとのメモに追記していけば、そのまま引き継ぎの資料にもなります。

製販分離の進め方:小さく始める4つのステップ

  1. 業務を棚卸しし、製と販に振り分ける。 誰がどの業務に月何時間使っているかを書き出し、上の表の区分で製と販に分けます。棚卸しの表は、会計事務所の人手不足対策の業務棚卸しテンプレートに「製/販」の列を1つ足し、新しいお客様の獲得や提案など販の業務の行を加えれば使えます
  2. 製の手順を、顧問先ごとに1枚にまとめる。 よく出る取引先とその勘定科目・税区分、資料の来方と締め日、過去に顧問先と確認した論点。厚い手順書は要りません
  3. 資料が電子で揃っている顧問先から、数社で始める。 全顧問先を一度に切り替えず、まず数社で製と販を分け、つなぎ方の一覧が回るかを確かめます
  4. 販の仕事を決める。 空いた時間で何をするかを先に決めます。顧問先ごとの面談の頻度、提案のテーマ、新しいお客様の獲得の方法。ここを決めないと、空いた時間は別の作業で埋まります

製の分け方は2つ:所内で分けるか、外部と分担するか

製と販の分け方は一つではありません。事務所の中に製を担うチームをつくって所内で分ける方法と、製の一部を外部に任せて分担する方法があります。

所内で分ける方法は、処理の方針を細かく反映しやすく、製で経験を積んだ職員が販へ移る道も事務所の中に作れます。その代わり、製を担う人を採って育て、手順と仕組みを整え続けるのは事務所の仕事です。外部と分担する方法は、製を担う人の採用や教育を抱えずに始められ、繁忙期の作業量の波も受け止めやすくなります。一方で、処理の方針を委託先に伝えて合わせてもらう手間がかかり、顧問先の情報を外部と共有することについて、契約と顧問先への説明が要ります。

どちらが向いているかは、製の量、伸ばしたい速さ、仕組みを回し続けられる人が所内にいるかで変わります。所内で分けたうえで、繁忙期の記帳や一部の顧問先だけを外に出す組み合わせもあります。顧問先単位で内製と外注の採算を比べる方法は会計事務所が記帳業務を外注するという選択肢にまとめました。

当社の会計事務所向け 4649経理代行は、外部と分担する形のひとつです。製のうち記帳を中心とした実務を、事務所のバックヤードとして担います。記帳代行・支払代行・経費チェック・固定資産管理・納品突合の5メニューから1つでも組み合わせでも使え、顧問先との窓口は事務所のまま。申告書の作成や税務相談は引き受けません。仕訳一行ごとに根拠と証憑を添えて納品し、判断が必要な点は作業報告書で確認事項としてお伝えするので、その確認事項を、製から販へ渡す情報の一部として使えます。


製と販を分けることは、職員の担当表を書き替えることではありません。記帳で気づいたことが面談に届く道を、事務所の側で設計し直すことです。渡す情報と渡すタイミングを先に決めてから、資料が電子で揃っている数社で始めてください。分け方だけを決めて受け渡しを後回しにすると、顧問先に向き合う時間は増えても、向き合うための材料が減ります。

なお、本記事は事務所運営の一般論です。業務の委託範囲や契約の組み方など、個別の判断に迷う点は、所属の税理士会や専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 所長と職員数名の小さな事務所でも、製販分離は必要ですか?
必ずしも必要ではありません。顧問先の数を大きく増やす予定がなく、担当者が面談や提案の時間を確保できているなら、製販一体の強みを生かすほうが合っている場合もあります。ただし、担当者が記帳に追われて面談が後回しになっている、新しいお客様の獲得が所長一人に集中している、といった状態なら、規模が小さくても製の一部を切り出す意味があります。全業務を一度に分けるのではなく、資料の整理や記帳のような工程だけを分けるところから始められます。
Q. 申告書の作成も「製」として外部に任せられますか?
税理士・税理士法人でない外部には任せられません。申告書などの税務書類の作成は税理士法第2条第1項の税理士業務で、第52条により、税理士または税理士法人でない者は原則として行えません。税理士でない委託先に任せられるのは、資料の整理や記帳、決算書の作成といった第2条第2項の付随業務と、法律上の制限がない事務作業までです。製を分けても、申告書の作成と税務判断は税理士の手元に残ります。個別の業務が税理士業務に当たるかどうか迷う場合は、所属の税理士会にご確認ください。
Q. 製販分離をすると、顧問先との関係が薄くなりませんか?
情報のつなぎ方を決めずに分けると、薄くなるおそれがあります。記帳で気づいた数字の変化が、面談に届かなくなるからです。製から販へ、販から製へ渡す情報とタイミングを先に決めておけば、販の担当者は記帳の気づきを持って面談に臨めます。そのうえで、期限のある製に削られずに面談の時間を確保できるので、関係はむしろ深めやすくなります。顧問先には、面談の担当と資料の担当を最初に紹介しておくと、窓口が変わった戸惑いを減らせます。