4649
固定資産・減価償却

修繕費と資本的支出の違い:判定フローと仕訳例、迷う工事の区分

執筆: 4649編集部

修繕費と資本的支出の違いは、その支出が固定資産を「元の状態に戻す・維持する」ものか、「使用可能期間を延ばす・価値を高める」ものかです。前者は修繕費として支出した期の費用、後者は資本的支出として資産に計上し、元の資産と同じ耐用年数で減価償却します。法人税法施行令132条と法人税基本通達7-8-1〜7-8-5がこの区分の根拠で、内容で判定できないときのために20万円・3年周期・60万円・10%・7対3という形式基準が用意されています。

迷うのは、定義ではなく目の前の請求書です。外壁の塗り替え150万円、事務所の蛍光灯をLEDに替えた110万円、機械の部品交換、ソフトウエアの改修。この記事では、通達の順序に沿った判定フローを示し、区分が分かれる工事を国税庁の一次ソースで確認したうえで、1枚の請求書を修繕費と資本的支出に分ける仕訳例、資本的支出にした後の償却と台帳登録、判定の根拠を残す判定メモの書き方をまとめます。固定資産業務全体の流れは固定資産管理の完全ガイド、償却計算は減価償却の計算方法に分けてあります。

修繕費と資本的支出の違い:定義と国税庁の例示

法人税法施行令132条は、固定資産の修理・改良等のために支出した金額のうち「使用可能期間を延長させる部分」と「価額を増加させる部分」を資本的支出と定めています(法人税法施行令132条)。残りの部分、つまり通常の維持管理のための支出と、き損した資産を原状回復するための支出が修繕費です(法人税基本通達 7-8-2)。

国税庁は通達で両者の例示を置いています。ここを押さえると、多くの工事は見積書の内訳を見ただけで振り分けられます。

区分通達の例示根拠
資本的支出建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の費用7-8-1(1)
資本的支出用途変更のための模様替えなど、改造・改装に直接要した費用7-8-1(2)
資本的支出機械の部品を特に品質・性能の高いものに取り替えた場合の、通常の取替費用を超える部分7-8-1(3)
資産の取得(資本的支出でもない)建物の増築、構築物の拡張・延長7-8-1 注
修繕費通常の維持管理、き損した資産の原状回復7-8-2
修繕費機械装置の移設費(集中生産や合理化のための移設は取得価額に含める)7-8-2(2)

7-8-1(3)の「通常の取替費用を超える部分」という言い方は、実務で最も使う考え方です。壊れた部品を同等品に替えれば全額が修繕費。より高性能な部品に替えたなら、同等品で直した場合の金額までが修繕費で、それを超える部分が資本的支出。1枚の請求書が両方に分かれることが前提になっているので、見積書に「同等品での修理の場合」の金額を出してもらえるかが、後の判定を左右します。

個人事業主(所得税)でも区分の考え方は同じで、タックスアンサー No.1379 修繕費とならないものの判定に同じ構成の基準があります。本記事は法人を前提に書きます。

判定フロー:通達の順に6つの問いで決める

判定の順序は通達の構成そのものです。タックスアンサー No.5402 修繕費とならないものの判定が、形式基準の優先関係を含めてまとめています。請求書と見積書の内訳を手元に置いて、上から順に当ててください。

順問いYes のとき根拠
1一つの計画に基づく同一資産の修理・改良等で、金額が20万円未満か修繕費にできる(内容を問わない)7-8-3(1)
2おおむね3年以内の周期で行われることが、過去の実績などから明らかか修繕費にできる(金額を問わない)7-8-3(2)
3内容が明らかに資本的支出か(物理的な付加、用途変更の改装、高性能部品への取替えの超過部分)その部分は資本的支出7-8-1
4内容が明らかに維持管理・原状回復かその部分は修繕費7-8-2
53・4で区分がつかない金額が、60万円未満か、または前期末取得価額のおおむね10%以下かその金額は修繕費にできる7-8-4
65にも当たらない区分不明の金額を、継続して「30%相当額と前期末取得価額の10%相当額のいずれか少ない金額」を修繕費とする経理をしているかその金額を修繕費、残額を資本的支出7-8-5

問い1・2は「資本的支出に当たる内容であっても修繕費にしてよい」という基準で、通達は「7-8-1にかかわらず」と明記しています。問い5・6は「区分が明らかでない金額」にだけ使える簡便法です。この2つを混ぜると、明らかな原状回復の70万円の修理を「60万円以上だから資本的支出」と誤ります。原状回復なら金額がいくらでも修繕費です。

問い5・6の「前期末取得価額」は、その資産の当初の取得価額に、過去に行った資本的支出の額を加えた金額です(7-8-4 注)。台帳で元の資産と資本的支出を枝番でひもづけておく理由の1つがここにあります。問い6の継続適用は、案件ごとに使うか選べる基準ではなく、採用するなら会社の方針として毎期同じ扱いを続けます。採用の判断は税務判断なので、顧問税理士と決めてください。

災害で被害を受けた資産の復旧工事には、区分不明の金額の30%相当額を修繕費とするなど別の特例があります(7-8-6)。被災資産の工事は通常のフローに乗せず、税理士へ相談する案件として扱ってください。

迷う工事の区分例:外壁塗装・LED・ソフトウエア・機械の移設

フローを実際の工事に当てると、次のように整理できます。

工事判定考え方
経年劣化した外壁を、同等グレードの塗料で塗り替え修繕費劣化した資産の原状回復(問い4)
外壁の塗り替えで、断熱性・耐久性の高い塗料にグレードを上げた同等塗料での塗り替え相当額は修繕費、超える部分は資本的支出7-8-1(3)の考え方。見積書で通常仕様との差額が出せるかが鍵
事務室の蛍光灯100本を、工事を伴わずLEDランプに交換(約110万円)修繕費国税庁の質疑応答事例。ランプは照明設備の部品で、設備全体の価値や耐久性を高めたとはいえない
照明器具本体や配線の改修を伴うLED化個別に判定上の事例の前提から外れる。見積の内訳で器具・配線部分を分ける
建物に避難階段・エレベーターを新設資本的支出物理的に付加した部分(7-8-1(1))
建物の増築資産の取得資本的支出ではなく新たな建物の取得(7-8-1 注)
倉庫を店舗に改装資本的支出用途変更のための模様替え(7-8-1(2))
工場内のレイアウト変更に伴う機械装置の移設修繕費7-8-2(2)。集中生産・合理化のための移設は取得価額に含める
業務ソフトウエアの不具合修正、現状の機能維持のための修正修繕費7-8-6の2
業務ソフトウエアへの新機能の追加、性能向上の改修資本的支出7-8-6の2。既存ソフトの仕様を大幅に変える費用は原則として資本的支出

LEDの事例は国税庁の質疑応答事例「自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えた場合の取替費用の取扱い」が根拠で、「性能が上がれば資本的支出」と機械的に考えてはいけないことを示しています。ソフトウエアは有形資産と同じ枠では考えにくいため、通達が別立てで示しています。プログラムの障害の除去や現状の効用維持のための修正は修繕費、新しい機能の追加や機能の向上は資本的支出です(法人税基本通達 7-8-6の2)。保守契約の範囲内の対応は保守料で費用処理、別途見積が出た改修は内容を見て判定、という切り方が実務では落ち着きます。

仕訳例:1枚の請求書を修繕費と資本的支出に分ける

税抜経理の法人を前提に、4つの案件の仕訳を示します。

①空調設備の故障修理 180,000円(税抜) — 部品を同等品に交換した原状回復で、20万円未満でもあります(問い1でも問い4でも修繕費)。

借方貸方
修繕費 180,000未払金 198,000
仮払消費税 18,000

②本社ビルの外壁工事 1,500,000円(税抜)、見積の内訳が「既存と同等塗料での塗り替え 900,000円」「玄関上部への庇の新設 600,000円」 — 塗り替えは原状回復で修繕費、庇は物理的に付加した部分で資本的支出です。1枚の請求書を内訳で分けます。

借方貸方
修繕費 900,000未払金 1,650,000
建物 600,000
仮払消費税 150,000

③建物の改修 550,000円(税抜)、見積に内訳がなく、原状回復部分と改良部分の区分がつかない — 区分できない金額が60万円未満なので、形式基準で全額を修繕費にできます(問い5)。

借方貸方
修繕費 550,000未払金 605,000
仮払消費税 55,000

④建物の大規模改修 2,000,000円(税抜)、区分不明、前期末取得価額15,000,000円、7-8-5の継続適用を会社方針としている — 60万円以上で、前期末取得価額の10%(1,500,000円)以下でもない区分不明の金額です。30%相当額600,000円と10%相当額1,500,000円の少ない方である600,000円を修繕費、残額1,400,000円を資本的支出にします(問い6)。

借方貸方
修繕費 600,000未払金 2,200,000
建物 1,400,000
仮払消費税 200,000

④の建物の取得価額が1億円なら、10%は1,000万円なので同じ200万円の工事が問い5で全額修繕費になります。同じ工事でも対象資産の規模で結論が変わるのが形式基準の性質で、台帳の取得価額が正しいことが前提です。

資本的支出にした後:償却の方法と台帳への登録

資本的支出は、原則として元の資産とは別に、その金額を取得価額とする新たな資産を取得したものとして扱い、元の資産と同じ種類・同じ耐用年数で償却します(法人税法施行令55条1項、タックスアンサー No.5405 資本的支出後の減価償却資産の償却方法等)。残りの年数ではなく、元の資産に適用している法定耐用年数をそのまま使う点に注意してください。耐用年数の引き方は耐用年数の調べ方にまとめています。

②の庇600,000円を例にすると、元の建物の耐用年数が38年なら、庇も38年の定額法(償却率0.027)で償却します。年間の償却費は600,000円 × 0.027 = 16,200円。3月決算の会社が10月に工事を完了して使い始めたなら、初年度は6か月分の月割で8,100円です。耐用年数を経過した建物への資本的支出でも、38年で償却を始めます。定率法を採用している資産(2012年4月1日以後に取得したもの)への資本的支出には、翌事業年度の開始時に元の資産と合算して1つの資産とみなす選択肢もあり、選択は税務判断を含むので No.5405 を確認したうえで顧問税理士と決めてください。

台帳には、元の資産の資産番号にひもづく枝番で登録します。取得日は資本的支出の事業供用日、取得価額は資本的支出の金額、耐用年数と償却方法は元の資産と同じ。この枝番があれば、次の修理で問い5・6を使うときの前期末取得価額(当初の取得価額+既往の資本的支出)が集計でき、元の資産を除却するときに枝番の除却漏れも防げます。台帳の列設計は固定資産台帳の作り方を参照してください。

判定を記録に残す:請求書受領時の判定メモと期末チェックリスト

判定で後から困るのは、結論ではなく「なぜそう判定したか」が残っていないことです。期末に修繕費の明細を見直したとき、数か月前の80万円の工事がどの基準で修繕費になったのかを担当者の記憶に頼ると、担当者が替わった時点で答えられなくなります。請求書の受領時に、次の項目を1行で残す判定メモを運用に組み込んでください。表計算ソフトの1シートで足ります。

項目記入する内容記入例
対象資産台帳の資産番号・名称B-0012 本社ビル
工事内容と金額(税抜)見積書の内訳行ごと外壁塗り替え(同等塗料)900,000/玄関庇の新設 600,000
決まった問いフローの1〜6のどれで結論が出たか塗り替え: 問い4/庇: 問い3
根拠通達・タックスアンサーの番号7-8-2/7-8-1(1)
処理科目と、資本的支出なら枝番修繕費/建物 B-0012-01
前期末取得価額問い5・6を使った場合のみ—(問い5・6 未使用)
判定者・日付税理士に確認した場合はその旨も経理A 2026-10-15 税理士確認済

期末には、修繕費の元帳を金額の大きい順に並べ、次の項目で見直します。仕訳チェックの観点一覧の確認項目に加えておくと、月次でも拾えます。

  • 20万円以上の修繕費に、判定メモがない行はないか
  • 同じ資産・同じ時期の修繕費を合計すると、分割された1つの工事になっていないか(問い1の「一つの計画」の単位)
  • 問い5・6で使った前期末取得価額は、台帳の取得価額と枝番の合計と一致しているか
  • 7-8-5を使った年度があるなら、他の区分不明の案件でも同じ扱いを続けているか
  • 資本的支出にした金額が台帳に枝番で登録され、元の資産と同じ耐用年数・償却方法になっているか
  • 建物の増築・構築物の延長を資本的支出や修繕費として処理していないか(新たな資産の取得)

請求書の受領時に見積の内訳を確認して問い1〜6を当て、資本的支出は台帳に枝番で登録し、償却費を月次で計上する。この一連の作業は、資料が揃っていれば社外でもできる部分です。4649経理代行の固定資産管理は、請求書や既存の台帳をいつものストレージで共有いただき、登録内容や耐用年数・償却方法をAIが起案して4649の担当者が確認したうえで台帳に反映し、減価償却費を計上して根拠資料とあわせて納品します。台帳が長年整備されていない状態からの現状整理にも対応します。区分が分かれる案件の最終判断や7-8-5の採用方針、申告書の作成は顧問税理士の領域のままなので、事務所との分担を確認したうえでご相談ください。


修繕費と資本的支出の違いは、元に戻す支出か、価値や耐久性を高める支出かにあります。判定は通達の順序どおり、20万円未満・3年周期(内容を問わず修繕費)→内容が明らかな部分の振り分け→区分不明の金額にだけ60万円・10%・7対3の形式基準、の6段階で進めれば迷いません。見積書の内訳を取り、判定の根拠を1行で残し、資本的支出は枝番で台帳に載せる。この3つを運用に組み込めば、期末に修繕費の明細を見返す作業が確認だけで終わります。

なお、この記事は一般的な制度と実務の解説です。個別の工事がどちらに当たるかの最終判断、7-8-5の継続適用を採用するかの方針、定率法資産の資本的支出の償却方法の選択などは税務判断にあたるため、見積書と台帳を揃えたうえで顧問税理士にご相談ください。

よくある質問

Q. 20万円未満の工事なら、内容を問わず修繕費にできますか?
法人税基本通達7-8-3は、一つの計画に基づいて同一の固定資産に行う修理・改良等の費用が20万円未満なら、資本的支出に当たる内容であっても修繕費として損金経理できるとしています。ただし「一つの計画」「同一の資産」が単位なので、1件80万円の改装工事を4枚の請求書に分けても、それぞれが20万円未満の別の修理になるわけではありません。また、建物の増築や構築物の拡張・延長は修理・改良ではなく新たな資産の取得なので、この基準の対象外です。分割発注や見積の切り分けが判定に影響しそうな案件は、工事全体の計画書・見積書を揃えて顧問税理士に確認してください。
Q. 20万円基準と60万円基準は、何が違うのですか?
使える場面が違います。20万円基準(通達7-8-3)は、内容が資本的支出に当たるものでも金額が小さければ修繕費にしてよいという基準です。60万円基準(通達7-8-4)は、資本的支出か修繕費か「明らかでない」金額に限って使える簡便法で、明らかに価値を高める工事を60万円未満だからと修繕費にすることはできません。順番としては、まず20万円未満か・3年以内の周期かを見て、次に内容が明らかに資本的支出か原状回復かを見て、それでも区分がつかない金額にだけ60万円未満または前期末取得価額の10%以下の基準を当てます。
Q. 7対3の按分は、どんなときに使えますか?
法人税基本通達7-8-5の取扱いで、20万円・3年周期・60万円・10%のどの基準でも区分がつかない金額について、継続して「支出額の30%相当額」と「前期末取得価額の10%相当額」のいずれか少ない金額を修繕費、残額を資本的支出として経理している場合に認められます。支出額の7割が資本的支出、3割が修繕費になる案件が多いことから「7対3」と呼ばれますが、10%相当額のほうが少なければ修繕費はその金額までです。案件ごとに使うかどうかを選べる基準ではなく継続適用が条件なので、採用するかは会社の方針として顧問税理士と決めてください。